2023年10月から施行されたインボイス制度。 自治体の対応は?

2024/07/23

2023年10月から施行された消費税の適格請求書等保存方式(インボイス制度)への対応については、事業者それぞれが選択するかたちで初回の確定申告が終わりました。インボイス制度については、個人事業主・企業と同様に、自治体も対応が求められています。総務省が2022年6月に「消費税の適格請求書等保存方式(インボイス制度)への対応に係る準備状況について(依頼)」を公表し、各都道府県総務部長に宛てた留意事項等を説明しています。では自治体におけるインボイス制度への対応とは、具体的になにが必要とされているのでしょうか。もし自治体がインボイス制度への対応をしていなかったとしたら、どのような影響があるのかについても、既に施行されたインボイス制度の概要も含め、確認しておきましょう。

適格請求書等保存方式(インボイス制度)とは

適格請求書等保存方式(以下「インボイス制度」という)は、2023年10月1日から導入された仕入税額控除のことを指します。

仕入税額控除というのは、二重課税を防ぐためのものです。

例えば、小売業者が製造業者から2200円(消費税額200円、税率10%)で仕入れを行い、消費者に3300円(消費税額300円、税率10%)で販売をしたケースを考えましょう。

小売業者の売上に係る消費税額は300円です。しかし、小売業者は商品を仕入れる段階で製造業者に200円の消費税を支払っています。そこで「売上に係る消費税額」から「仕入れに係る消費税額」を差し引いた消費税額、この例では300円−200円=100円を納付することになります。これが仕入税額控除の仕組みです。

ここで注意しておきたいのが「仕入れに係る消費税額」を差し引くための条件です。仕入れに際して、どれだけの消費税が請求されたかを示す適格請求書(以下「インボイス」という)が必要となり、そのインボイスを保存しておくことで仕入税額控除が受けられるようになります。

インボイス制度はなんのために導入されたのか

インボイス制度は、インボイスにもとづいて消費税の仕入税額控除額を計算し、その計算のもととなる証拠書類を保存することを規定した制度のことです。

目的

現在、消費税率は原則として代金の10%を設定されていますが、食品や定期購読の新聞などについては8%の消費税が適応されています。つまり、税率が混在した状態です。そこで消費税額をインボイスに明記して正しく計算し、売り手が買い手に正しく伝えるためにインボイス制度が導入されることになりました。

インボイスに記載される内容

インボイスというのは、取引が発生した場合、売り手が買い手に対して適切な税率や消費税額を正確に伝えるための請求書・納品書・領収書などのことを指します。

記載される内容は以下の6項目です。

  1. 適格請求書発行事業者の氏名または名称、登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその取引内容)
  4. 税率ごとに合計した対価の額と適用税率
  5. 税率ごとに区分した消費税額等
  6. 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称

適格請求書発行事業者登録をしていない事業者はインボイスが発行できません。適格請求書発行事業者登録できるのは課税業者です。

適格請求書以外は仕入税額控除の対象にならない

インボイス制度が施行された現在では、適格請求書以外では仕入税額控除が受けられません。適格請求書発行事業者登録をしていない事業者はインボイスが発行できません。そのため、地方自治体も、基本的にすべての会計ごとに、適格請求書発行事業者登録を行う必要があります。しばらくは経過措置期間が設けられていますが、基本はインボイスが必要になります。

つまり、自治体の各会計がインボイス制度に対応していない場合、自治体から何かを購入する、あるいはサービスを受ける買い手は仕入税額控除が受けられず、消費税を多く納付することになります。

自治体のインボイス制度への非対応による影響

自治体のインボイス制度への非対応による影響

総務省は自治体に対してもインボイス制度への対応が必要であるとし、対応を進めるように促してきました。

インボイス制度が施行されてからはじめての確定申告が終わった現在、自治体の対応はどのような状況なのでしょうか。株式会社シード・プランニングは、インボイス制度施行前の2023年2月から3月にかけて、都道府県47自治体、東京都特別区23自治体、政令指定都市20自治体、中核市62自治体、一般市710自治体、町743自治体の合計1,605自治体を対象にインボイス制度に関するアンケートを実施しています。それによると、2023年の3月までの段階で98%の自治体が「既に申請済み」あるいは「申請予定」としていました。

自治体の会計には一般会計と特別会計があります。それぞれ、自治体がインボイス制度に対応する必要性を説明します。
※「買い手」=請求書を受け取る側、「売り手」=請求書を発行する側

1 自治体が売り手(請求書を発行する)場合

一般会計について

一般会計というのは、おもに住民へサービスを提供するために、行政運営の基本的な経費を計上する会計を指します。

自治体の一般会計は消費税法(昭和63年法律第108号)第60条第6項で、課税売上に対する消費税税額と課税仕入れ等に対する消費税額を同額とみなすとされています。そのため、自治体の一般会計には消費税の申告義務はありません。しかし、消費税の申告義務がないからといって、一般会計が行う取引自体が非課税の取引であるということではありません。一般会計が徴収する料金等には消費税が含まれていますし、一般会計から仕入れを行っている事業者は、その仕入れに係る消費税額を仕入税額控除することができます。

インボイス制度導入後の影響

自治体の一般会計から課税仕入れを行っている事業者にとっては、自治体の一般会計がインボイス制度に対応しない場合は、当該仕入に対して仕入税額控除を受けることができなくなりますので、消費税の納付額が増加することになります。

インボイスの必要な取引

行政サービスの提供や総務費・民生費といった経費を計上する一般会計において、インボイスが必要な取引は次のような取引です。

  • 庁舎などの施設使用料
  • 庁舎などの有料駐車場の駐車料金
  • 公立美術館や公園といった公的施設の入場料等
  • 公用車の払い下げといった公有財産の売却・貸し付け
  • 自治体直営の店舗から事業者が仕入れとして特産品を購入した際の売上

特別会計について

特別会計というのは、特定の収入を利用して特定の支出にあてるため、一般会計と区別して経理をする必要があるものを指します。

特別会計には、法律で設置が義務づけられているもの(国民健康保険や介護保険の特別会計等)と、条例を定めて設置するもの(土地区画整理事業の特別会計等)とに分けられています。

自治体の特別会計については、課税事業者である特別会計と免税事業者である特別会計があります。

インボイス制度導入後の影響

課税事業者である特別会計と免税事業者である特別会計のどちらであっても、自治体がインボイス制度に対応しない場合、特別会計から課税仕入れを行う事業者は自治体からの仕入れに対して仕入税額控除を行うことができません。その結果、仕入事業者は消費税の負担額が増加することになります。

インボイスの必要な取引

特別会計に区分される取引で、インボイスが必要とされているのは次のような取引です。

  • 水道料金、電気料金、ガス料金
  • 事業系のゴミ処理手数料
  • 公営バスや地下鉄といった自治体が運営する交通機関の運賃
    1回の取引が税込み価格で3万円未満のときはインボイスの発行は必要ありません。
  • 公立病院の自由診療
  • 港湾施設利用料
  • 卸売市場使用料

自治体がインボイス制度に対応しない場合の影響を考えると、自治体であっても外部事業者との取引がある以上、適格請求書発行事業者の登録申請を行い、インボイスを買い手である外部事業者に交付したうえで交付したインボイスの写しを約7年間保存しておく体制を整えておかないと、外部事業者に消費税の負担が増加する影響を与えかねないといえます。

自治体と取引がある民間企業を対象としたアンケートで「自治体との紙の帳票類のやり取りで困っていること」として、17%が「インボイス制度に対応した書式になっていない」と回答しました。

2 自治体が買い手(請求書を受け取る)場合

自治体が買い手(請求書を受け取る)場合に必要な対応はおもに以下の3点です。

①取引先事業者がインボイス発行事業者であるかどうかの確認

自治体が買い手(請求書を受け取る)場合は、取引先がインボイス発行事業者(適格請求書事業者)であるかどうかの確認をする必要がでてきます。
上記でも説明しているとおり、インボイス制度に登録していない取引先から発行された請求書には、インボイスが記載されていません。こうした請求書では仕入税額控除ができません。

②取引先事業者の登録番号の確認

取引先事業者が発行した請求書がインボイスであることを確認するには、登録番号の有無と登録内容を確認する必要があります。
国税庁適格請求書発行事業者公表サイトで交付された請求書などに記載されている登録番号を検索し、請求書を発行した事業者の名前や登録年月日を確認します。

③受領したインボイスの保存

仕入税額控除を受けるためには、インボイスであることの確認と、請求書の保存が必要要件です。そのためインボイスであることを確認した請求書はインボイスでないものとは区別をして保存をしておく必要があります。
なお、保存に関しては、電子帳簿保存法の保存要件を満たしたかたちで保存する必要があります。

インボイス制度への対応に必要な準備と現状

インボイス制度への対応に必要な準備と現状

インボイス制度への対応については、民間の企業や個人事業主と同様に自治体においても必要な準備は大きく変わりません。やるべきことは3つです。

  1. 適格請求書発行事業者の登録を所轄の税務署に行う
  2. 原稿の区分記載請求書の記載事項に加えて、登録番号、適用税率、税率ごとに区分した消費税額等を記載したインボイスを、買い手である事業者に交付する
  3. 交付したインボイスの写しを約7年間保存する

これらの対応は既に終わっているのでしょうか。

まず、紙媒体の契約書・納品書・請求書・領収書などを保存しているのか、電子帳簿に対応しているのかなど、既存の会計システムや取引に関する書類の状況を確認し、それぞれインボイス制度に対応できる体制に変更していくことが必要です。

例えば、事業者から受け取る請求書や見積、契約、発注、検収、支払いに関する通知などの書類をオンラインで受領・交付できる体制になっているのかどうかを確認し、対応ができていないところは順次デジタル化を検討し、進めていきます。紙媒体の経理書類と電子書類が混在している状態では、管理するための工程が複雑になりやすく、ミスや混乱が生じかねません。

また、インボイスを発行するときも受領するときも、適格請求書であるか、記載事項に漏れやミスはないかなど、確認すべき事項は増えます。

これらの作業を効率化するためにも、デジタル化を進めておく必要があります。

こうした取組は自治体のDX推進の取組とも重複するもので、自治体DXを考えるなかで、効率的に進めていくことが重要でしょう。

これらの対応が完了しているのかどうかを探るうえで注目しておきたい調査データがあります。インフォマートが2023年11月24日〜12月14日の期間で自治体を取引先としている売り手企業または買い手企業である民間企業に対して自治体との地域企業の取引における課題を深掘りするためのアンケートを実施したものです。

この調査によると、請求書については「すべて紙でのやり取り」としたのが6割を超える結果でした。また企業からの要望が多かった項目が「共通様式」への対応についてです。自治体ごとに異なるルール、書式が採用されていることが多く、また「インボイス制度に対応していない」との回答も17.2%ありました。

つまり、ほぼすべての自治体においてインボイスへの対応は進めており、完了している自治体も多くある一方で、帳票類においてはいまだ紙ベースで独自の書式が使われている現状も確認されたということです。

電子インボイスについて

電子インボイスというのは、仕入税額控除を受けるために必要なインボイスを電子データ化したものを指します。デジタルインボイスとも呼ばれています。

電子インボイスを活用すると、インボイスを電子データで作成・保存・管理ができるようになります。その結果、経理に関する業務を効率化させることや、業務負担の軽減につなげることも可能になります。

デジタル社会の実現にむけてさまざまな取組に対応しているデジタル庁では、業務の効率と生産性の面から電子データと紙の書類が混在している状況を改善すべき状況だと考えています。

そこで業務をデジタルで完結させることができる電子インボイスの標準仕様の策定や普及を官民連携のもと推進しています。

まとめ:インボイス制度に対応した帳票類の様式を整備し、地域企業との取引の活性化をめざす

2023年10月からインボイス制度が施行され、多くの企業や個人事業主は対応に追われてきました。現在もインボイス制度に対応した帳票類への変更や業務フローの変更などを進めている事業者も少なくないでしょう。自治体においても、地域企業をはじめ多くの事業者との取引があります。地域の経済を支えることに大きな役割を担う自治体こそ、率先した対応と改変を加速させる必要があるでしょう。DX推進も含め、自治体における業務フローを見直し、デジタル化への対応を進めるきっかけとして電子インボイスへの変更を検討してみましょう。

※本記事は更新日時点の情報に基づいています。

監修者プロフィール

松藤 保孝 氏

一般社団法人 未来創造ネットワーク 代表理事
松藤 保孝

自治省(現総務省)入省後、三重県知事公室企画室長、神奈川県国民健康保険課長、環境計画課長、市町村課長、経済産業省中小企業庁企画官、総務省大臣官房企画官、堺市財政局長、関西学院大学大学院 法学研究科・経営戦略研究科教授、内閣府地方創生推進室内閣参事官等を歴任し、さまざまな政策の企画立案、スリムで強靭な組織の構築、行政の業務方法や制度のイノベーションを推進。一昨年退官後、地域の個性や強みを生かすイノベーションを推進する活動を行う。

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