飲食店経営の要点。変動費・固定費それぞれのコスト削減方法

2021/03/21
新型コロナの感染拡大が影響している今、飲食店経営ではコスト削減がより重要視されている。しかしむやみにコストを削減してしまうと、メニューやサービスの質まで落としかねない 具体的にどういった対策をすれば、店舗の利益確保や健全な飲食店経営につなげられるのだろうか。今回は、飲食店の3大コストであるFLRコスト比率や4つの見直しポイントについて解説する。

飲食店の変動費・固定費とは

飲食店に限らず、会社が事業を行ううえで発生する経費は、変動費と固定費に分けられる。主な項目は税金を除いて以下が挙げられる。
変動費 食材費、人件費、販促費(広告・宣伝費)、水道光熱費、消耗品費、修繕費、交通費、研修費、交際費など
固定費 家賃(店舗や本部の賃料)、通信費、保険料、減価償却費、支払利息、物品リース料など
次からは飲食店にとって特に大きな経費(コスト)になり、見直しがしやすいものを取り上げる。

利益確保のためのFLRコスト比率

飲食業では、利益がどの程度かを表す経営指標としてFLRコスト比率というものがある。店舗の売上高に対して、このFLRコスト比率が占めている割合をコントロールすることで利益率を高められるのだ。 FLRとは、Food(材料費)、Labor(人件費)、Rent(家賃)のこと。つまり飲食店でかかる3大コストの頭文字を取ったものとなる。計算方法としては、F・L・Rの費用を足して売上高で割る。この費用が何%になるかを知っておけば、素早く利益を確認することが可能になる。 一般的にFLRコスト比率は、60〜70%程度に抑えることが理想とされている。安定した店舗運営を継続するためにも、まずはFLRコストにはどんなものが当てはまるのか確認していこう。 F(Food)食材費 FLRのF(食材費)とは、主に食材やドリンクなどの仕入れにかかるコストのことだ。売上から粗利益を算出する際は、材料費を「原価」として用いる。 食材費=原価となるため、Fコストの割合は原価率の計算と同様で簡単に導き出せる。 例えば売上が500万円で原価が150万円なら、計算式は「150 ÷ 500 × 100 = 30%」。食材費の割合は30%と算出できる。 ちなみに食材費の目安は、25〜45%ほど。業態によってFコストの割合は異なるため一概にはいえないが、これ以上の割合になっているのであれば、一度仕入れ先の変更やメニュー料金の改定などを検討したほうがよいかもしれない。 L(Labor)人件費 FLRのL(人件費)は従業員の給与や賞与、福利厚生費などの人に支払う費用の割合を指す。個人で飲食店を運営している場合は、事業主が売上から差し引く給料や事業を手伝う家族への専従者給与などが挙げられる。 こちらの費用も、店舗の数や従業員数などの事業規模によって大きく変動するが、コストの割合は15〜25%程度が目安となるだろう。 特に高級レストランや専門店のような店では、接客サービスの質も重要となるため人件費の割合が高くなりがちだ。先ほどの材料費と合計し、高くても60%ほどの割合に抑えられるようバランスをとることが必要となる。 R(Rent)家賃 FLRのR(家賃)は、出店している店舗の家賃や共益費にかかるコストのこと。商業施設へ出店しているなら、毎月かかるテナント料(賃貸料)が家賃にあたる。また物件を自己保有している場合には、固定資産税などで考えるといいだろう。 そしてRコストの目安としては、10%以内に抑えたい。もし10%を超えているなら、売上に対して店舗の規模が見合っていない可能性が高い。 広告宣伝費を抑えやすい商業施設への出店でも、店舗の売上に応じて金額が変動する「売上歩合方式(売上歩率)」が一般的で、売上の7〜10%ほどの費用が相場となる。 R(家賃)に関しては、一度出店してしまうと費用を削減するのも難しい。そのため、事前にある程度の売上目標を想定しつつ、FLRコスト比率に見合った物件を探したいところである。

無暗なコスト削減は逆効果。サービス品質を低下させずに削減する4つの“見直し”

ここからはFLRコストのそれぞれの見直し方や対策について詳しく解説していく。 1.Fコスト(食材費)の見直し方 Fコストでは、主に食材に関するコスト削減で見直しを図ることになる。しかし食材の質を落とすことはメニューの品質低下にもなりかねないため、あまり有効な手段とはいえない。そこで注目したいのが、廃棄する食材(食品ロス)を減らすことだ。 食品ロスの削減は、無駄な支出を減らし店舗の利益向上に直結する。Fコストを見直すためにも、まずは食品ロス対策に取り組むことが必要不可欠だろう。 具体的には、
・食品の再利用
・仕入れ量の管理
などが挙げられる。
例えばビュッフェ形式の店舗では、取り分け過ぎなどで料理が残りやすい。食べ残し分がコストとなるため、残量の多いお客様には料金の割増をするなどの注意喚起は有効だ。 また通常の飲食店でも、調理過程において使用する食材を他の料理と共通化する、調理オペレーションを標準化するなどでロスを減らせる。 仕入れ量の管理は、消費期限内に利用しきれず廃棄となる食材を減らすことにつながる。例えば前年の消費量や食品ロスの量を参考に、季節や月毎に食材の仕入れのバランスを調整すれば、過剰仕入れなどを防げるだろう。 さらに各店舗が過剰発注してないか、棚卸を本部が把握しやすくするために受発注システムを導入するのもおすすめだ。 ▼食品ロス削減対策にフードシェアは有用? 農林水産省の発表では、平成29年度の食品ロスの量が約612万トン、食品関連事業者から発生する分では約328万トンにも達している。(※) そこで政府は、2019年10月に「食品ロスの削減の推進に関する法律(食品ロス削減推進法)」を施行した。さらに食品リサイクル法に基づいた「食品廃棄物などの発生抑制目標」が事業者毎に設けられるなど、国をあげて食品ロスの削減に力を入れている。 こうした影響により食品ロスへの関心が高まる中、近年では「フードシェア」に注目が集まっている。フードシェアとは、飲食店などで廃棄直前の商品とそれを必要としている消費者をマッチングするサービスだ。 例えば、消費期限が迫っている商品や規格外の野菜・肉などを、店舗やECサイトで安く販売する手段も挙げられる。また処分されてしまう食品を、食べ物に困っている施設や人へ届ける「フードバンク」へ寄贈するという方法もあるだろう。 飲食店にとっては、直接的なコスト改善にはつながらないかもしれないが、企業のイメージアップは期待できるため、CSR活動などでブランドイメージアップを考えている企業は、検討してみてはいかがだろうか。 参考:農林水産省「食品ロス量(平成29年度推計値)の公表について」 2.Lコスト(人件費)の見直し方 Lコストでは、主に人件費の削減について検討することになる。ただ従業員のモチベーションや作業効率にも影響してくるため、より慎重に考える必要がある。 例えばスタッフの給料や賞与を減らすことは、一時的なコスト削減にはつながる。だが同時に、スタッフの作業効率や接客サービスの品質が低下し、最悪スタッフが離職してしまう原因になりかねない。 また店舗の人員を減らすことは、従業員1人あたりの作業負荷が増にもつながりやすい。作業効率の低下によって、料理提供する速度の低下や、接客サービス品質の低下などを招くなど、マイナス面も大きい。 そのためLコストの見直しには、経営者目線だけでなく現場で働く従業員の目線に立って考えることも重要となる。 ▼シフトの見直し 人件費を削減するポイントは、Fコストと同様に無駄な部分の見直しがカギとなる。例えば、お客様が少ない時間帯には多くの人員を入れる必要はない。反対に年末やゴールデンウィークなどの繁忙期には一時的にでもスタッフを増員することが必要だ。 適切なシフトの調整をするためにも、どの時間帯や時期にどれくらいの来店客数があるかといったデータ収集が必要となる。毎日の来店客数や売上などを集計すれば、わざわざお店の状況を目視で確認するといった手間も無くなるだろう。 ▼自動化ツールの導入 飲食店では通常、調理以外にもオーダーやレジ業務などを担うスタッフが必要となる。しかし、そうした人員のリソースを自動化ツールの導入で代用するのもひとつの方法だ。 例えば各テーブルにセルフオーダーできるタブレットを設置すれば、わざわざスタッフが注文を受け取りにいく手間がなくなる。お客としても、注文の都度スタッフを呼び止める必要がないため、気兼ねなくなくメニューを注文できる。 特に焼肉屋などで注文制の食べ放題メニューを用意しているところだと、お客1人当たりの注文数が多いので、ホールスタッフに人員を割かねばならなくなる。コスト削減と合わせて、そうした人材不足の問題も自動化ツールの導入で解決できるだろう。 3.Rコスト(家賃)の見直し方 Rコストでは、店舗の家賃やテナント料などを減らすことでコストを削減できる。これらの費用は、すでに出店している飲食店だと移転などの大掛かりな手段しかないと思っている経営者も少なくない。 しかしそのほかにも、Rコストの見直し方は存在する。例えば、物件の賃料をオーナーと相談し引き下げてもらう方法だ。 特に最近は新型コロナの影響により、飲食店などの家賃相場が下がっている傾向にある。もし近隣物件の家賃水準と比較して今借りているところが高額であるなら、オーナーへの相談で減額につながる可能性も十分にあるだろう。 とはいえ交渉を行うためには、家賃相場の調査や不動産知識などが必要になる。相談する中で、オーナーとの関係性が悪化するリスクなども考えるとなかなか難しいものだ。 そこで、家賃相場の調査や必要書類の準備、交渉まで幅広くサポートしてくれる「賃料適正化コンサルティング」を利用する方法もある。これらの作業を不動産の専門家が代行するので、自身で行うよりも成功率は高くなるはずだ。無料相談などを実施しているコンサル会社もあるため、検討してはどうだろうか。 また最近では、キッチンスペースをレンタルしオンラインのみで注文を受け付ける「シェアキッチン(クラウドキッチン)」サービスという新しい形態も出てきている。無店舗で飲食業に参入できるため、初期投資や移転の費用を抑えられるのがメリットだ。 こうしたサービスの普及により、飲食業では選択肢の幅が広がっている。 ▼固定費の見直し 電気やガス、水道などの固定費についても、見直すことでRコストの削減につなげられる。 例えば電気代に関しては、2016年に電力小売完全自由化が行われ、一般家庭で自由に電力会社を選べるようになった。2017年には都市ガスの小売全面自由化、2018年の改正水道法の施行により、水道の民営化も進んでいる。 水道事業の民営化は自治体毎に異なるが、電気やガスについては契約する会社・プランの変更が可能だ。最近では、電気+ガスのセットプランなども提供されており、光熱費の見直しが検討しやすくなっている。 また、店舗内で実施できる節約にも必ず取り組むべきだ。「照明をLEDに切り替える」「節水率の高いノズルを蛇口に取り付ける」といったことでも、積み重ねれば費用の削減につながるだろう。 4.広告・宣伝費の見直し FLRコスト以外の主な出費としては、広告宣伝費が挙げられる。 飲食店における広告宣伝費の相場としては売上の5〜10%ほど、少なくても3%程度になるのが理想と言われている。 自店舗の広告宣伝費が相場より高い傾向なら、見直しや改善が必要だろう。例えば、SNSで企業アカウントを作り、オウンドメディアを立ち上げて店舗の宣伝などを行うと、かなりのコストを抑えたPRが可能な場合もある。 季節キャンペーンなどで集客へ力を入れる際には、チラシやポスティング広告などの紙媒体も活用すると幅広く宣伝できるはずだ。このように、通常期と繁忙期などでPRのメリハリをつけることで費用を抑えられるだろう。

“見える化”で適切なコストコントロール

飲食店のコスト削減では、無駄な部分を削ることが最も重要だと言える。特に食材費のFコストと人件費のLコストは、日頃から変動するので手をつけやすい。 そしてどこに無駄が潜んでいるのかを見つけるためにも、売上管理や在庫管理などのデータを集計し、店舗にかかるコストの「見える化」が必要不可欠だ。 例えば、在庫データから食材ロスの多いものを把握し仕入れを抑える、毎日の客数や売上などから曜日毎のスタッフのシフトを調整するなどだ。 日々のデータ管理やFLRコスト比率などから削減できる部分を見つけ、適切なコストコントロールでお店の利益確保につなげよう。

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