飲食店の食物アレルギー対応(基礎知識編)~発症原因・症状の種類、企業の表示義務など

2018年02月05日
「このメニューに卵の成分は入っていますか?」「乳を使っていない料理はありますか?」――。飲食店の多くは、こうしたアレルギーに関する問い合わせをお客から受けた経験があるだろう。近年、食物アレルギーの患者数は増加しているといわれ、外食でもアレルギー対応に取り組む企業が増えてきた。 しかし、一歩間違えば健康被害や時には命に関わる事故になりかねないため、対応を尻込みしている事業者も多いのではないか。今回は食物アレルギーとはどういう病気で、どんな食物が原因となり、どのような症状が出るかを紹介する。まずは基本を知ることで、対応の重要性と自店でできることを見つけてみてはいかがだろう。

日本人の2人に1人はアレルギー患者

花粉による激しい鼻水や目のかゆみ、ハウスダストによるぜん息。こういった症状が起こることをアレルギー反応という。アレルギーは免疫反応(身体にとって異物を排出するためのメカニズム)のひとつで、アレルゲン(アレルギーの原因となるもの)によって引き起こされる。現在、日本人のおよそ2人に1人が何らかのアレルギー疾患であり、アレルギーは国民病といわれている。

食物アレルギーとは

食物アレルギーとはアレルギーの1種で、特定の食べ物を摂取した際に身体が食物に含まれるたんぱく質などを異物(アレルゲン)として認識し、自分の身体を防御するために過敏な反応を起こすことをいう。

症状

食物アレルギーの症状は、ほとんどが食物を摂取してから2時間以内に現れる。大きく以下のように分類されている。
皮膚粘膜症状 ●皮膚症状:かゆみ、じん麻疹、唇などの腫れ、発赤疹、湿疹
●結膜症状:眼結膜充血、かゆみ、流涙、まぶたなどの腫れ
消化器症状 ●吐き気・むかつき、腹痛、嘔吐、下痢
●慢性の下痢による蛋白漏出、体重増加不良
上気道症状 ●口腔粘膜や咽頭のかゆみ・違和感・腫張
●咽頭喉頭の腫れ
●くしゃみ、鼻水、鼻閉
下気道症状 ●せき、ゼーゼーした呼吸・呼吸困難
全身性反応 ●ショック症状(頻脈・血圧低下・活動性低下・意識障害など)
よく見られる症状は皮膚だが、その他に呼吸器や消化器など様々ある。 特に危険なのが、このようなアレルギー症状が複数同時に、急激に現れることだ。この状態を「アナフィラキシー」といって、血圧や意識が低下するような場合をアナフィラキシーショックという。この状態となったら直ちに処置しないと命にかかわることになる。

年齢分布

※20歳以上は10代区切りで集計
平成27年度食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書(平成28年3月)(消費者庁)
食物アレルギーについて正確な患者数は把握されていないが、日本人の1~2%が何らかの食物アレルギーを持っていると考えられている。大部分は乳児期に発症し、年齢とともに病状がおだやかになることが多い。しかし、成人になってから初めて発症することもあり、年齢は幅広く分布している。 また、男女比は年齢群別で異なり、17歳までは男性が6割前後なのに対し、18 歳以上では女性が7割を占める。

原因となる食べ物

平成27年度食物アレルギーに関連する食品表示に関する
調査研究事業報告書(平成28年3月)(消費者庁)
表にあるように、発症原因として一番多いのは鶏卵、次に牛乳、小麦と続く。しかし、免疫の反応は個人によって違いがあるため、食物アレルギーの原因となる食べ物は、たんぱく質を含む食物すべてといえる。 また、症状を引き起こす食物も、人によって一つだけであったり複数あったり、摂取量もごくわずかに入った料理をなめただけで発症する人もいれば、ある程度の量まで食べなければ発症しない人など様々だ。 食物アレルギーは同一の人であっても体調によって反応が変わったり、年齢によって原因食物が変わったりする。乳幼児期では鶏卵、乳、小麦が多く、18歳以上では小麦、甲殻類(エビ・カニ)、果物、魚類などが多い傾向にある。

治療法

現在のところ、食物アレルギーに有効な治療方法はなく、患者は原因となるアレルギー物質を食べないことで発症を防いでいる。

外食の場合

外食で提供される料理の場合、アレルギー表示は義務付けられていない。これは以下の理由がある。 ●注文に応じて多様なメニューを同じ厨房で調理することで、アレルゲンを分けるなど適切な調理工程の管理が困難である
●対面営業のためお客が店員へメニュー内容の確認ができ、店側で使用する原材料や調理方法の調整が可能である

表示義務に関する法律『食品表示法』

加工食品の場合

容器包装された加工食品を販売する場合、食品表示法によってアレルギーを発症しやすい原材料の表示が義務付けられている。 特に重篤度・症例数の多い7 品目を「特定原材料」と呼び、食品に使用されていれば必ず表示しなければならない。このほか21品目を「特定原材料に準ずるもの」といって、表示が推奨されている。食物アレルギーの患者はこの表示を確認して、自身が食べられるか判断している。
表示 用語 品目
義務 特定原材料(7品目) えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)
推奨 特定原材料に準ずるもの(21品目) アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン
【監修】公益財団法人 食の安全・安心財団 常務理事・事務局長 中村啓一
公式HP:http://anan-zaidan.or.jp/
1949年生まれ。1968年農林省(現農林水産省)入省。主に、食品産業・食品流通関係行政を担当。現在は、公益財団法人食の安全・安心財団で、食に関わるリスクコミュニケーションの研究と実施を中心に活動。共著『食品偽装・起こさないためのケーススタディ』(ぎょうせい)、著書『食品偽装との闘い』(文芸社)など。
出典:
「外食・中食におけるアレルゲン情報の提供に向けた手引き」(外食等におけるアレルゲン情報推進検討会)
「第1回アレルギー疾患対策推進協議会 資料2 アレルギー疾患対策について」(厚生労働省)
「リウマチ・アレルギー相談員養成研修会テキスト 第4章 食物アレルギー」(厚生労働省)
「平成27年度食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」(消費者庁)
「外食等におけるアレルゲン情報の提供の在り方検討会中間報告(平成27年4月1日一部改定)」(消費者庁)
「アレルギー物質を含む加工食品の表示ハンドブック(事業者向け)平成26年3月改定」(消費者庁)
「消食表第139号 食品表示法等(法令及び一元化情報) 食品表示基準に係る通知・Q&Aについて 別添アレルゲン関係」(消費者庁)
記事中の文章・表などは上記の各資料をもとにインフォマート作成
飲食業の食物アレルギー基本対応

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