飲食店の食物アレルギー対応(実践編)~情報提供・低アレルゲンメニューの注意点

2018年02月06日
多くの人々が外食に楽しい時間を求めている。しかし食物アレルギーのある人は、同席者と同じものが食べられないといった制限があり、特に児童では半数がレストランなどで思うように家族と外食できないのが現状だ。 児童に限らず成人も食物アレルギー患者が増える現在、患者にとって外食できることは憧れと捉えられている。前回は食物アレルギーの基礎知識を紹介したが、今回は飲食店が食物アレルギーのあるお客に対応するための具体的な方法を見ていこう。

飲食店のアレルギー対応の現状

容器包装された加工食品と違って飲食店のメニューにはアレルギー表示の義務付けはなく、現在はアレルギーの対応自体をしていない外食企業が多く見られる。その中でも対応している企業は、ウェブサイトで各メニューに含まれるアレルギー物質を表示したり、「卵を使わないハンバーグ」など低アレルゲンメニューを販売したりといった対応をしている。また、直接的な表示対応をしなくても、メニュー表に「お問合わせください」と表記したり、注文を受ける際に確認したり、事前の問い合わせに対してはメールや電話などで案内しているところもある。企業によって様々だ。

飲食店が取るべき食物アレルギーの対応

飲食店での食物アレルギー対応は、大きく分けて「食物アレルギーの情報提供」と、「食物アレルギー物質を除去したメニュー提供」の2つに分けることができる。

食物アレルギーの情報提供

前編で触れたとおり、食物アレルギーは原因物質、量、症状が人それぞれ違うため、飲食店が画一的な対応をすることは非常に難しい。むしろ患者本人が「食べられるかどうか」判断できるよう、正確な情報を提供することが基本的な対応となる。 使用する食材の正確なアレルギー情報を把握するためには、仕入れ先から常に最新の情報を集め記録する必要がある。商品規格書(アレルギー情報や原産国などの情報を記した仕様書)の提供を依頼しておこう。管理しておく食物アレルギーの範囲は、食品表示法で定められている特定原材料などをベースに考えればいいだろう。 また、情報提供の方法も重要だ。タイミングによって来店前と来店時がある。いずれの場合も、まずはお客に食物アレルギーの情報を提供していると気づいてもらうことが重要だ。 PITS標準フォームで食物アレルギーをチェック 1.来店前の提供方法
患者が外食する際は、来店前にその店がアレルギー対応をしているか情報収集することが多い。このため、外食企業が電話やメールなどで問い合わせに応じたり、Webサイトやスマホアプリなどで情報提供することはお客にとって利便性が高く効果的だ。
2.来店時の提供方法
店舗のメニュー表にアレルギー物質を記載する、アレルギー一覧表を作成してお客に提示するなどの方法がある。一覧表は児童や外国人のために、文字のほかに図やイラストを用いることも有効だ。例として以下のようにメニューごとに表記することが多い。
メニュー えび かに 小麦 そば 落花生
ビーフカレー
和定食
フライドチキン
(注)○年○月○日時点の情報です。予告なしに内容を変更する場合があります。 食物アレルギーの情報管理には、データベースを使ったシステムも提供されている。書類による管理よりも確認や更新がしやすいので、選択肢として検討してよいだろう。

アレルゲン除去メニューの提供

特定のアレルゲンを除去したメニューの提供には、定形メニューを提供する対応と、オーダーメイド対応がある。 (1)定形メニュー対応
鶏卵を使用しない豆腐ハンバーグや7大アレルゲンが除去されたお子様ランチなど、特定のアレルゲン食材が使用されていないメニューを販売する対応。
(2)オーダーメイド対応
店員が注文時に食物アレルギーの状況を聞き、原因物質を抜くなどお客の希望に合わせて個別対応する。これは素材原料を中心とした調理をする飲食店で多く取られている。しかし加工原料や調味料を一部でも使用する場合には注意が必要なため、基本的に食物アレルギーの軽症者向けとなる。

コンタミネーションを予防する

厨房で調理するときなど、調理器具や揚げ油などを介してアレルギーの原因食物が意図せず混入することがある(コンタミネーションという)。アレルギー対応食を調理する場合はコンタミネーションが発生しないよう、調理器具や、揚げ油の使い分けなどの工程管理、配膳などの作業を徹底する必要がある。 しかし現実的に、飲食店では限られた厨房スペースで様々なメニューを調理するため、コンタミネーションのリスクは避けられない。基本的にはリスクはあると捉えて、安易に混入の可能性はないと示してはいけないし、消費者にリスクを伝えることも必要だ。 (例)コンタミネーションリスクの伝え方
厨房では同じ調理器具を使用しています
そばとうどんを同じ釜で茹でています
エビ・鶏卵・小麦・牛肉・豚肉・鶏肉を同じ施設(厨房)内で調理しています

対応のポイント

あいまいな対応は絶対しない

外食事業者が正確な対応をするには限界がある。そんな中、もっとも危険なのが、あいまいな対応による誤食だ。正確な対応ができない場合や情報に自信がない場合などは、「対応できません」「分かりません」と明確に伝えることが、消費者のリスクを回避することになる。できないと伝えることも対応だ。

従業員教育

食物アレルギー対応は、まず経営者が必要性を理解することから始まり、次に指導者や管理者、運用する従業員などへ落とし込む必要がある。主な内容は下記のとおりだ。 1.啓発・意識の変容
経営者自らが食物アレルギー対策への意識を向上させることが必要である。衛生概念と同じように、食物アレルギーの正しい対応の必要性を示そう。
2.マニュアル作成
最適なアレルギー対応は、事業者や店舗によって違ってくる。事故を起こす原因は、仕入先からの情報ミス、メニュー開発(構成)ミス、店舗ミス(手順書に従わない食材の使用やオーダーの伝達ミス)など様々な段階で発生しうるからだ。そのため、それぞれの業務内容と照らし合わせた独自のマニュアル作成が必要となる。従業員同士の確認方法や原材料にアレルギーを識別できるマークをつけるなど、具体的な情報管理および伝達方法を定める必要がある。また、マニュアルを作成したらその通りの対応ができるかもチェックしておこう。
3.研修
対応する・しないにかかわらず、従業員への食物アレルギー研修は必要である。事業者から従業員まで正しい知識を得て、世の中のアレルギーに関する最新の知識を取り入れる研修を開催しよう。特に飲食店は従業員の入れ替わりが激しいため、研修は定期的に開く必要がある。

ロイヤルホストの取り組み

実際の外食企業は、どのような取り組みをしているだろうか。平成26年に消費者庁で開催された「第3回 外食等におけるアレルゲン情報の提供の在り方検討会」で報告されているロイヤルホールディングスを例に見ていこう。 ロイヤルホールディングスは、ファミリーレストランのロイヤルホストや天丼てんやなどのほか、空港・高速道路のフードサービス、事業所、病院、介護施設などの給食、ホテルなど飲食事業を幅広く展開している。このような状況で取り組んでいる内容を紹介しよう。

アレルギー一覧表を常備

原材料由来のアレルギー一覧表を各店舗で常備。また、ロイヤルホストではホームページでメニューごとの栄養成分とアレルギー物質を一覧化して、だれでも閲覧可能にしている。 <アレルギー情報一覧表の作成手順>
1.メニュー決定後、原則すべての原材料規格書を取引先から入手
2.アレルギー情報を抜き出して一覧化
3.メニューごとにアレルゲン情報集約
4.アレルギー一覧表を作成(商品によっては、メニューブックに反映)

低アレルゲンメニューの提供

ロイヤルホストでは特定原材料7品目を使用しないカレーライスやハンバーグプレートなど、低アレルゲンメニューを提供。管理・調理工程では、専用原材料を用意して、調理器具(菜箸、トングなど)の再洗浄、専用プレートや使い捨て食器(ナイフ、フォーク、スプーン)などを実施している。

研修・教育ツールでの意識啓蒙

アレルギーの怖さや情報の集約、エラーのないような仕組みのつくり方を研修し、全従業員向けに食の安全・安心についてのハンドブックを用意。またEラーニングで店長・料理長向け、ミドルマネジメント向け、製造部門向けに、アレルゲンに限らず食の安全・安心にかかわる内容を継続して取り組んでいる。 ロイヤルホールディングスのお客様相談室では、アレルゲンに関するお問い合わせの他に「とても助かっています」という意見が寄せられたり、店舗で「以前食べて大丈夫だったので、今日も楽しみに来ています」という場面があるそうだ。 食物アレルギーを持つお客にとって、外食への憧れは大きい。外食事業者がきちんと対応することで、食物アレルギーの有無によらず、すべてのお客に外食の価値を提供してほしいと願っている。 【監修】公益財団法人 食の安全・安心財団 常務理事・事務局長 中村啓一
公式HP:http://anan-zaidan.or.jp/
1949年生まれ。1968年農林省(現農林水産省)入省。主に、食品産業・食品流通関係行政を担当。現在は、公益財団法人食の安全・安心財団で、食に関わるリスクコミュニケーションの研究と実施を中心に活動。共著『食品偽装・起こさないためのケーススタディ』(ぎょうせい)、著書『食品偽装との闘い』(文芸社)など。
出典:
「外食・中食におけるアレルゲン情報の提供に向けた手引き」(外食等におけるアレルゲン情報推進検討会)
「第1回アレルギー疾患対策推進協議会 資料2 アレルギー疾患対策について」(厚生労働省)
「外食等におけるアレルゲン情報の提供の在り方検討会中間報告(平成27年4月1日一部改定)」(消費者庁)
「消食表第139号 食品表示法等(法令及び一元化情報) 食品表示基準に係る通知・Q&Aについて 別添アレルゲン関係」(消費者庁)
「第3回 外食等におけるアレルゲン情報の提供の在り方検討会議事録」(消費者庁)
「第3回 外食等におけるアレルゲン情報の提供の在り方検討会 【資料2】ロイヤルホールディングス(株)(上原氏)説明資料」(消費者庁)
記事中の文章・表などは上記の各資料をもとにインフォマート作成
飲食業の食物アレルギー基本対応

フード業界の「食の安心・安全」に対応
BtoBプラットフォーム 規格書

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