ホテル・旅館の食物アレルギー対策~特定原材料の表示、予約時のヒアリングが重要

2020年12月14日
ホテルや旅館といった宿泊施設のおもてなしの顔ともいえる、モーニングやランチ、ディナー。近年、患者数が増加している食物アレルギーの宿泊客にとっては、時として命に関わる場合もあるため、事業者による特定原材料の表示や予約時のアレルギー確認は必要不可欠だ。的確なアレルギー対応は施設の信頼性を高め、顧客満足度の向上にもつながる。 知っておきたい食物アレルギーの概要や特定原材料等の品目や、宿泊施設の具体的なアレルギー対策について紹介する。

食物アレルギーの法制度と食品容器の表示義務

食物アレルギーは症状が重い場合は命に関わる。日本ではアレルギー患者への安全対策として、2002(平成13)年の食品衛生法施行規則等を改正。アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を含む食品については、包装容器への表示が法律で義務化されている。 ただし、宿泊業に付随したレストラン等の飲食業には原材料の表示義務はなく、統一的なガイドラインもない。アレルギー患者やその家族は、アレルギー対策がなされていなければ不安から食事を楽しめず、不満を感じてしまうだろう。 アレルギーの症状は人それぞれだ。メニューに含まれている原材料や調理法が確認できれば、食べる・食べないは当事者が選ぶことができる。提供側は、食物アレルギーに関する正しい知識や理解を深めておきたい。

食物が原因で起こるアレルギーは「食べる」だけではない

人間の体には、病原菌や異物が体内に侵入しても、それらの有害なものから体を守る免疫機能が備わっている。これは体内で異物に対抗するための抗体が作られ、病気の発症などを抑える働きがあるからだ。 この免疫機能が、特定の物質(アレルゲン)に対して過剰に反応し、体に有害な症状を引き起こすことを「アレルギー反応」という。 アレルゲンを含む食べ物が原因のアレルギーが食物アレルギーだが、その発症経路は「食べる」だけではない。吸い込んだり、触れたりするだけで発症するケースもある。その症状も多岐にわたり、身体の一部にだけ現れることもあるが、ひどい場合には血圧低下や呼吸困難、意識障害といった命に関わる危険もある。 では具体的にアレルゲンを含む食物には、どのようなものが当てはまるのだろうか。現状の食品表示法で規定されている特定原材料について詳しく解説していく。

特定原材料等は28品目

アレルゲンを含む食物は、食品の表示について規定した食品表示法により、容器包装された食品に必要な情報を記載する義務がある。具体的には過去の症状例や頻度から、人間の健康を害することが判明したものを特定原材料等と指定。28品目が定められている(2020年12月現在)。 特定原材料等に指定された食物には、アレルギーの発症数や症状の度合いに大きな差があるため、表示義務のある7品目と、通知で表示を推奨する21品目に分かれる。

食品表示基準で定められる品目「特定原材料」「特定原材料に準ずるもの」

表示 用語 品目
義務 特定原材料(7品目) えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)
推奨 特定原材料に準ずるもの(21品目) アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン
ただし、特定原材料や準ずるものは個包装された食品が対象で、飲食店や宿泊施設などの料理は対象とされていない。 その理由は、製造者(調理者)がその場にいるため、消費者は何が含まれているか確認できること、調理場では調理器具が使い回されたり原材料が頻繁に変わったりするため、表示が困難であることが挙げられる。

より良いサービスのための食物アレルギー対策と対応法

特定原材料等を含む食品は、消費者が日常的に食べるものの中にも数多くある。だからこそ食品を取り扱う事業者には、できる限りのアレルギー対策が求められるだろう。 ホテルや旅館で提供される料理に、まったく特定原材料等が含まれないということはまずないだろう。直接調理していなくても加工品の中に特定原材料が入っている場合もある。利用客が安心して食事を楽しむには、宿泊事業者が食物アレルギーに前向きに取り組み、適切な対処が必要だ。 では具体的にどういったアレルギー対策や対応法がホテルや旅館では求められるのだろうか。宿泊施設の現状や様々なケースを想定した対策について見ていこう。

ここ最近のホテル・旅館へのニーズ

ホテルや旅館を利用する宿泊客の層は、以前と比べて変化している。その最も大きな変化は、団体旅行客の減少と個人客の増加だろう。特に2000年以降には、職場や学校の団体客が徐々に減っており、2010年以降には家族や個人旅行の需要がグンと伸びている傾向にある。 家族にアレルギー患者がいる場合でも、個人客の場合でも、料理の選択肢を増やすなどの柔軟な対策が利用客満足度を高めるだろう。 また最近では新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、外出自体へのリスクが高まっている。利用客側も宿泊するホテルや旅館選びに慎重になっている傾向がある。 適切なアレルギー対策を実施していれば、より良いサービスの提供という点でも利用客からの信頼性が高まりやすい。

バイキング(ビュッフェ)形式への対策

朝食や昼食、夕食にバイキング(ビュッフェ)形式で食事を提供するホテルも多い。多くの食事が並び、様々な利用客が手をつけるトングやおたまなどを介して特定原材料等を含まない料理にもアレルゲン物質が混入する懸念がある。 特定原材料等に気をつけて料理を選んでいても、アレルギー反応を引き起こしてしまう可能性があるのだ。 施設側には宿泊客の安全面に配慮する注意義務がある。できる限りの配慮や対策を行うべきだ。例えば、予約時や受付の際にアレルギーの有無をしっかり確認し、調理場や客室担当などと情報共有しておく必要があるだろう。 メニュー毎にどんな原材料を使っているかを一覧にし、利用客へ情報提供するのも望ましい。ただ、メニューが変わる毎に新しい表を用意する必要があり手間がかかるという問題はある。この解決策については後述する。

コンタミネーション予防策

コンタミネーション(コンタミ)とは、主に「混入する」という意味で使われる言葉である。ホテルや旅館のバイキング(ビュッフェ)形式ではコンタミネーション予防策が求められる。 まず、トングやおたまなどの器具の使い回しを可能な限り無くすために、それぞれの品目ごとに器具を用意したい。 いくら宿泊施設側が気をつけていても、利用客側が器具を使い回してしまうリスクがある。注意喚起の表示を利用客の目につく場所に設置したり、従業員が頻繁に器具の交換を実施したりしてそうした事態を予防しよう。 また、事前にアレルギー疾患の確認を行って、バイキングとは別のメニューを用意するという方法もある。ただ、その場合は、アレルギー対応食を誤って別の利用客に提供しないよう細心の注意が必要だ。

メニュー名から原材料が推測できないケース

提供する料理の中には、特定原材料等が含まれているかどうか、名前だけで判断できないものもある。例えば、沖縄の郷土料理、ジーマミ豆腐は、大豆ではなく落花生を使っている。特定原材料等に気をつけていても、知識不足や先入観による思い込みによるアレルギー発症のリスクはある。特に地域特有の料理については、その土地に住む人しか分からないことが多いだろう。 ホテルや旅館側は、こうしたメニュー名から原材料が分かりにくく勘違いしやすい料理の場合、あらかじめ利用客に説明する必要がある。

予約時などに前もってアレルギーの確認を

食物アレルギーは、基本的にたんぱく質を含んだものすべてが発症原因となり、表示義務・推奨の28品目以外の食品でも起きる。また、その日の体調次第で、少量のアレルゲンでも発症するケースもある。 どんなアレルギーをもっていてどの程度注意する必要があるのか、予約時や受付時などの利用客と直接コミュニケーションを取る際、入念にヒアリングしておきたい。 積極的なヒアリングや注意喚起の実施は、利用客の信頼性を高め安心感にもつながるだろう。 また調理過程などでアレルゲン物質を完全に除去しきれない可能性があるなら、その旨を事前に伝えるのも重要だ。

アレルギーに関する情報提供

アレルギーに関する利用客への情報提供は、予約時や受付時のコミュニケーション以外にも可能だ。例えば、施設の実施しているアレルギー対応や、提供する食事に含まれるアレルゲン物質の一覧表をホームページ上に掲載すれば、事前に選択肢が広がる。 バイキング(ビュッフェ)形式の場合には、料理が置かれている場所に特定原材料を明記したメニューカードやピクトグラム(絵文字)を掲示すれば、スムーズに料理を選べる。 アレルギーをもつ利用客の情報は、従業員全体に周知することが望ましい。情報伝達する際には、食物アレルギー関する連絡票などのテンプレートを作成しておけば、それぞれの担当部署へ確実に伝えられるだろう。

厨房との連携が必要不可欠

食物アレルギーへの対応は、一度体制を整えれば終わりではない。時期や季節でメニューは変わるし、納品された原材料がいつもと異なるケースもある。 変化するメニューや原材料を従業員間で正確かつスムーズに情報伝達するには、ホールスタッフや調理スタッフなどの連携が必要不可欠だ。 利用客の安全に関わるだけに、間違いやミスがあってはならない。ただ、使用される原材料の情報量は多く、日々蓄積されていくため人員のリソースなどにも限界がある。 もし人の手で限界を感じているなら、食物アレルギーに関する情報管理が可能なシステムを導入するのもひとつの手だ。 例えば「BtoBプラットフォーム 規格書」というシステムでは、仕入れ品のアレルギー・原産国などの情報をデータベースで管理。食品業界でよく利用される標準フォーマットにも対応しているため、以前の管理体制からスムーズに移行を実現できる。発注をWeb上で行うシステム「BtoBプラットフォーム受発注」と連携させて「メニュー管理機能」を利用すればメニューごとのアレルギー管理も確実に行えるため、より手間をかけずに安全性を高められる。 アレルギーに関する情報が施設内で迅速に回ることで、利用客からの「アレルギーを引き起こす原材料を使っていないか」「原材料の産地を知りたい」といった質問にもすぐ答えられるだろう。

万が一、事故が起こってしまったときの対応

もし利用客がアレルギー症状を訴えた場合、施設内で可能な限りの応急措置や対応を実施する必要がある。詳細は厚生労働省の資料を参照してほしいが、重要なのは、アレルギー症状に合わせた最適な行動だ。緊急性の高いアレルギー症状かどうかの判断は5分以内に行わなければならない。 一方で緊急性が低い場合には、患者に内服薬を飲んでもらい安静にできる場所へ移動する。5分毎に患者の状態をチェックし、症状に変化がないかを観察。重症化するようであれば、緊急性の高いアレルギー対応に移行する。

従業員の役割分担を決めておく

万が一の事態に備え、施設内のスタッフは各自の役割分担を決めておくと迅速な対応が可能となるだろう。 例えば発見したスタッフが患者の観察係となり、エピペンの準備係や救急車の連絡係を呼ぶ。その後、連絡係は現場の責任者を呼び監督者として指示を仰ぐ。 さらに患者の状態やエピペンなどの使用を記録する係、他の利用客への対応を実施する係などの役割に分けられる。

徹底した情報管理と従業員の連携で適切な食物アレルギー対策を講じる

食物アレルギーに関する情報は、現段階では解明されてない。例えば加工食品は、様々な調理工程でアレルゲンの抗体性が減少・消滅する可能性があると言われている。しかし、どの過程をたどれば危険性が無くなるのかは判明しておらず、まだまだアレルゲンに対する知見も少ない。 今後、食物アレルギーに対する対応も更改されることがあるため、事業者は最新情報を厚生労働省などのウェブサイトから確認し、定期的に従業員へ研修する必要がある。 利用客にとっては、ホームページへのアレルギー表の掲載や注意喚起、予約時や受付時でのアレルギーの確認などが安心できる材料になる。事業者がすべき食物アレルギー対応の基本は情報提供であり、正確かつ効率的に行うためには、システムの導入による情報管理や従業員同士の連携は欠かせない。 より良いサービスを提供するためにも、まずは施設内や従業員が始められることから導入してみるべきだろう。 参考:
アレルゲンを含む食品に関する表示|消費者庁
食物アレルギー緊急時対応マニュアル
旅館ホテルにおける食物アレルギーの利用客対応マニュアル
食品表示基準について別添アレルゲン関係|消費者庁
アレルギー表示のために必要な知識|独立行政法人 福祉医療機構
飲食業の食物アレルギー基本対応

フード業界の「食の安心・安全」に対応
BtoBプラットフォーム 規格書

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