飲食店で食中毒が発生しやすい7つのポイントと予防3原則

2018年03月13日
2017年には惣菜店からO157による集団食中毒で死者が発生し、大きく報道された。しかし実際は、国内で最も多く食中毒が発生している場所は飲食店である。事業者にとっては加害者となるだけでなく、営業停止、社会的信用やブランドイメージの失墜、被害者への補償と、その影響ははかりしれない。予防するためにはどのような取り組みが必要だろうか。事業者向けに衛生指導などを行っている日本食品衛生協会の専門家に具体的なポイントと対策をうかがった。

食中毒事件の発生場所は、飲食店が6割超

厚生労働省の発表した統計資料によると、2016年に報告のあった国内で発生した食中毒事件は1,139件。そのうちの713件が飲食店で起きていた。割合にすると60%以上である。

施設別発生割合

年次別発生状況

食中毒統計資料 過去の食中毒発生状況(厚生労働省) 食中毒の発生件数は過去10年を比較してみてもあまり減っている様子はない。特に、発生場所で飲食店が占める割合は高止まりの傾向にある。公益社団法人 日本食品衛生協会の技術参与 飯田信行氏によると、食中毒事故を起こす飲食店の多くは一般衛生管理ができていないという。 「食品衛生管理の基本が守られていない飲食店は、衛生的な手洗い、トイレの清掃、まな板など器具の消毒などができていません。そのために食中毒の原因となる微生物が汚染したり、増殖したりして、事故を引き起こしてしまうのです」 公益社団法人 日本食品衛生協会
飯田信行氏

食中毒予防の3原則『つけない・増やさない・やっつける』

食中毒は、原因となる細菌やウイルスが食べ物に付着し、体内へ侵入することによって発生する。食中毒を予防するためには何をどのように気をつけるべきなのか。飯田氏によると、食中毒予防には3原則があるという。それは原因となるものを“つけない・増やさない・やっつける”こと。それぞれ、具体的にどうすればよいのだろうか。

1.つけない

『つけない』は、主に手や調理器具、または、汚染された食品から食中毒の原因菌やウイルスを食べ物に付けないことを指す。 「“つけない”で重要になるのは、やはり基本中の基本である徹底した手洗いです。特にノロウイルスは少量のウイルスでも中毒が起きる場合があります。最近は、ノロウイルスを体内に持っているのに症状が出ない、いわゆる健康保菌者も多く確認されてきており、無自覚なまま、手などを介して感染を広げてしまう可能性もあるんです。従業員が1人でもいい加減な手洗いをしていると、他の人がちゃんと洗っていても意味がありません」 ポイント:正しい手洗い以外にも、トイレの洗浄・消毒やまな板などの調理器具の洗浄・消毒で、交差汚染や二次汚染を防ぐ。

2.増やさない

『増やさない』は、食材の保存時などに微生物などが増殖しないようにすることを指す。 「たとえば腸炎ビブリオは魚介類に付着していることがあり、刺身などで温度管理が悪いと、爆発的に増殖します。また、ウエルシュ菌は、酸素が少なくて他の細菌がいない状態で50℃くらいの温度が長く続くと一気に増えます。そのため寸胴に入れたままのカレーなどで事故を起こすことがあります。“増やさない”ためには、適切な温度管理をする、保存する場合は小分けにしてすみやかに冷やすといった工夫が必要です」 ポイント:食品中の細菌は危険温度帯(10~60℃)で増殖する。加熱後、保温は60℃以上を保ち、冷却する場合はすみやかに10℃以下まで冷やす。

3.やっつける

『やっつける』は加熱処理を指す。 「加熱して提供するメニューは、中までしっかり火を通すように心がけましょう。メニュー開発の際は中心温度計などを使って、大体どれくらいの火力で何分ほど加熱すれば中まで火が通るのか把握しておくと、およその目安になります」 ポイント:獣畜や家きんの生肉や内臓に存在している可能性のある微生物は、75℃以上で1分以上の加熱により死滅する。 ただし、加熱が有効ではない料理もある。刺身やサラダなどは加熱することができないし、黄色ブドウ球菌のように加熱しても毒素が残り続ける細菌もある。セレウス菌の芽胞には加熱も一般的な消毒薬も無効だ。 「食中毒を予防するために何より重要なのは、原因を正しく知って、発生させない意識を持つことです。有害な微生物の特性や調理方法、どういう状況で発生しやすいのか危害要因を知ることで、“つけない・増やさない・やっつける”のどの段階でどう制御すべきか、対策を立てることもできます」

料理の調理温度帯で分類する

料理の調理過程で食中毒を引き起こす有害な微生物が増殖しやすいポイントがある。以下に対策を見ていこう。

加熱しない料理

加熱による調理工程がない料理は、食材に有害な微生物が付着していても殺菌することができない。食中毒対策として、有害な微生物に汚染されていない食材を使用するか、万が一、有害な微生物が付着しても、増殖しないように冷蔵庫などで低温保管することが重要になる。 (例)刺し身、豆腐など

加熱して提供する料理

食肉などは有害な微生物に汚染されている可能性があるので、十分な加熱をしてから提供する必要がある。食肉は75℃1分以上、中心部まで火を通すことが重要だ。 (例)ハンバーグ、焼き魚など

加熱後、冷却する料理(再加熱も含む)

加熱調理したものを長時間室温においておくと、有害な微生物などが増えて食中毒の原因となる。加熱した料理を保管する場合は、60℃以上を保つか、危険温度帯(10~60℃)に長く留まらないよう、すばやく冷却することが重要になる。 (例)カレー、スープ、ポテトサラダなど

食中毒予防の7つのポイント

では、飲食店の現場では具体的にどうすればよいだろうか。食中毒予防のポイントとそれぞれの対策をみてみよう。

1.原材料受け入れ

「原材料の受け入れでは、納品時に立ち会って確認するのがベストです。しかしばらばらに来る業者に常に対応するのが難しい場合もあるでしょう。やり方は店の都合に合わせて構いませんが、必ず立ち会う、チェックする、長時間放置しないことが大切です」
(1) 商品や数量など、注文内容と納品物が合っているか確認する。
(2) 外観、におい、包装の状態、表示(期限、保存方法)などを確認する。
(3) 冷蔵・冷凍品は保管温度を確認する。室温におかれる時間をできるだけ短くする。
(4) なんらかの問題があったときは、返品などの対応をする。

2.冷蔵・冷凍庫

「庫内温度の記録をつけるようにしましょう。見える化することで異常な温度変化があった場合などに、故障なのか一時的なものか見きわめやすくなります。温度計は外から温度が見えるものが便利です。また、細菌は冷凍しても死滅しないことに気をつけてください」
(1) 庫内の温度を定期的(例:始業前)に確認する。
冷蔵は10℃以下、冷凍は-15℃以下。
(2) 保存している食材の期限表示を定期的に確認し、期限内に使用する。
(3) なんらかの問題があったときは、廃棄または加熱して提供するなど、事前に決めた方法に従い対応する。

3.交差汚染・二次汚染の防止

「保管や調理の際に、生肉などから他の食品へ食中毒菌の汚染が広がることがあります。まな板や包丁は肉や魚など用途別に使い分けましょう」
(1) 冷蔵庫内の食品は、種類ごとに場所を決めて保管する。
特に生肉、生魚介類などの食材はふた付きの容器に入れ、冷蔵庫の最下段に保管する。
まな板、包丁などの調理器具は、肉や魚などの用途別に分け、使った都度十分に洗浄し、消毒する。
(2) 決めた頻度(例:作業中)で、冷蔵庫内の保管状況や調理器具の使用・洗浄などを確認する。
(3) なんらかの問題があったときは、事前に決めた方法に従い対応する。
例)調理器具などを介して生肉などからの汚染の可能性がある食材は、必ず加熱して提供する、または使用しない。まな板や包丁などに汚れが残っている場合は、再度、洗浄し、消毒する。

4.器具の洗浄・消毒・殺菌

「汚れが残っていると、他の食品に汚染が広がってしまいます。また、洗剤や薬剤も保管・管理が不十分だと誤使用の危険性があることに気をつけましょう」 (1)扱った都度、以下の手順で十分洗浄し、消毒する。 A. まな板、包丁、へらなど 1.水道水で水洗いし、目に見える食品、汚れを取り除く。
2.スポンジタワシに洗剤をつけ、泡立ててよく洗浄する。
3.水道水で洗剤をよく洗い流す。
4.熱湯、塩素系殺菌剤または70%アルコールなどで殺菌する。
5.よく乾燥させ、清潔な場所で保管する。
B. ふきん、タオル等 1.水道水で水洗いする。
2.洗剤をつけ、泡立ててよく洗浄する。
3.水道水で洗剤をよく洗い流す。
4.沸騰したお湯で5分間以上煮沸殺菌、または、塩素系殺菌剤で殺菌する。
5.清潔な場所で乾燥、保管する。
(2)なんらかの問題があったときは、事前に決めた方法に従い対応する。 例)使用時に汚れや洗剤などが残っていた場合は、洗剤で再度洗浄、すすぎを行い、消毒する。

5.トイレの洗浄・消毒

「トイレは特にノロウイルスなどの汚染源になります。手すりやドアノブなど、手が触れる場所は入念に消毒してください。清掃の際には清掃用の作業着などに着替え、調理する食品を汚染させないように気をつけましょう」 (1)以下の手順に従って、決めた頻度例(例:始業前)で実施・確認する。 1.調理時とは異なる服、くつ、ゴム手袋を身に着ける。 2.トイレ用洗剤、ブラシ、スポンジを用意する。 3.水洗レバー 、ドアノブなど手指が触れる場所を、塩素系殺菌剤で拭く。5~10分後に水を含ませて軽く絞った布で拭く。 4.手洗い設備を洗浄する。 5.便器は、専用洗剤を用いて、ブラシでこすり洗いした後、流水ですすぐ。 6.床面は、専用洗剤を用いて、ブラシでこすり洗いした後、流水で洗い流す。 7.消毒済みの個所を汚染しない。水洗レバー、ドアノブなどに触れてしまうなど、汚染の可能性があった場合は、再度殺菌する。 8.使用した用具は洗浄して乾燥・保管する。 9.終了後は、入念に手洗いをする。 (2)なんらかの問題があったときは、事前に決めた方法に従い対応する。 例)使用時に汚れや洗剤などが残っていた場合は、洗剤で再度洗浄、すすぎを行い、消毒する。

6.従業員の健康管理・衛生的な作業着の着用など

「ノロウイルス食中毒の原因の8割は調理従事者に由来します。また、手指の傷は黄色ブドウ球菌による食中毒の原因になることを知っておきましょう」 決めた頻度(例:始業前または作業中)で、以下について確認する。 1.従業員に下痢や嘔吐などの症状がある人がいないか確認する。
症状があった人は帰宅させ、病院で受診させる。治るまでは、直接食品を取り扱う業務に従事させないようにする。
2.従業員の手指に傷がないか、確認する。
傷がある場合は、耐水性絆創膏をつけた上で手袋を着用させる。
手袋着用を過信せず、着用時も手洗いをする。
3.従業員が食品を取り扱う際、清潔な服を着用しているか確認する。 4.従業員が髪を清潔に保ち、必要な場合は結んでいるか確認する。 5.腕時計や指輪などの貴金属を外しているか確認する。

7.手洗い

「昔から手洗いにはじまり手洗いに終わるというのが食品衛生の基本です。なぜ手を洗わなければいけないのか、しっかり理解した上で衛生的な手洗いを心がけましょう」 (1)決めた頻度で、衛生的な手洗いを実施し、確認する。
(例:トイレの後、調理施設に入る前、盛り付けの前、作業内容変更時、生肉や生魚などを扱った後、金銭をさわった後、清掃した後など)
(2)なんらかの問題があったときは、事前に決めた方法に従い対応する。
(例:従業員が手を洗っていないことを確認した場合は、すぐに手洗いをさせる)
以上の飲食店で特に食中毒が発生しやすい7つのポイントへの対策については、厚生労働省が公表している「HACCPの考え方に基づく衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)」に、詳細が掲載されているので参照いただきたい。 「飲食店の衛生管理で大切なことは、何のためにやるのか、どうすべきか従業員一人ひとりが意識することです。そこをしっかり教育することが食中毒予防につながります」 衛生管理は、食品を扱う事業者にとってはあたりまえのことだ。基本的なことをしっかり守って食中毒事故を防いでほしい。 取材協力:公益社団法人日本食品衛生協会

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