これからのまちづくりを担う不動産業界に求められるサステナビリティ経営

昨今、企業経営においてサステナビリティ、つまり持続可能性が求められるようになっています。これはまちづくりの責任を担っている不動産業界も例外ではありません。サステナブルな経営は、まちづくりにどのような影響を与えるのでしょうか。また、不動産業界はどのような視点でまちづくりに向き合うべきでしょうか。金融機関や都市開発大手企業の勤務経験があり、現在は多摩大学大学院経営情報学研究科教授で、同学サステナビリティ経営研究所所長の堀内勉氏に現状と展望を聞きました。

堀内 勉 氏
多摩大学大学院経営情報学研究科 教授
多摩大学サステナビリティ経営研究所 所長

社会的価値とインパクトのある事業活動が求められている

企業にサステナブルな経営が求められるようになった背景を教えてください。

堀内勉氏(以下、堀内氏): サステナブルな経営とは、企業活動を通じて経済的価値を実現することを目指すだけでなく、同時に社会問題に対応していくことで企業の社会における存在意義を確認し、ひいては企業の長期的な持続可能性を高めていこうという経営のことです。こうした考え方が普及したきっかけのひとつに、2015年9月の国連サミットで採択された、2030年までに後進国と先進国とが協力して解決すべき国際目標SDGs(持続可能な開発目標)があります。SDGsに掲げられている17の目標が達成されれば、地球上の問題はすべて解決されるという幅の広い内容になっています。SDGsの前段階にMGDs(ミレニアム開発目標)と呼ばれるものもありましたが、これは主に発展途上国の課題として提示されていたため、ここに先進国の課題も加えてともに解決をしていこうと方向に改めたものです

企業も経済的価値だけを追求するのではなく、社会の持続可能性に貢献すべきだという考え方は、新型コロナウイルスの感染拡大によって広く世界に浸透しました。日本では2021年に岸田内閣が「新しい資本主義」についての議論を始めており、これを受けて金融庁も社会的価値を実現するためのインパクト投資を広め、かつ、この分野で世界をリードしていこうという姿勢を示しています。

私は日本とアメリカの金融機関での勤務を経験していますが、その当時から、金融は世の中の役に立っているのだろうか、社会的価値の向上に貢献しているのだろうかという問題意識を持っていました。そのため、従来型のコーポレートファイナンスと対を成す、社会的価値の向上のためのソーシャルファイナンス、とりわけ、リスクとリターンの二軸に加えて社会的なインパクトを重視するインパクト投資に早期から着目し、2018年からは多摩大学に新設された社会的投資研究所で活動をしてきました。この研究所は2024年4月に名称をサステナビリティ経営研究所に改めています。これまではソーシャルファイナンスという概念を広める努力をしてきましたが、その段階はすでにクリアしたと感じたからです。これからは、ソーシャルファイナンスを含む、企業や社会のサステナビリティを幅広く研究していきたいと思います。

足元の企業経営を見てみると、すでに多くの企業は自ら変化しようと努力しています。パーパス経営の浸透はその一端です。企業はこれまでビジョンやミッションといった理念を掲げてきました。ビジョンやミッションは「自分たちはこうしたい」という自社の側からの一方的な希望や願望ですが、パーパスは「自分たちは社会にこのような貢献をします」という、その企業の社会的存在意義を示すものです。今の世界の状況を考えると、企業はその存在意義を社会に認められなければサステナブルではいられません。つまり、社会に存在する根拠がなくなってしまうのです。

これから必要なのは地域に合った、地域性を活かしたまちづくり

とりわけ不動産業界にはどのような変革が必要ですか。

堀内氏:特に都市開発やまちづくりに関わる不動産会社は、サステナブルなまちづくりを強く意識する必要があります。一度つくった街は、この先100年は続くからです。

しかし、今の日本ではそうした視点でのまちづくりがされていない地域が多いと言わざるを得ません。太平洋戦争での空襲を避けることができた京都や金沢などでも、結局はみずから街を壊すような開発を進めてきてしまいました。

もちろん、1980年代のバブルの影響も大きいのですが、もう少し構造的に考えてみると、その要因の1つは、まちづくりの主体である自治体が、箱物行政という発想から抜けきれず、どのような街をつくっていきたいかといった長期的なビジョンがないケースが多かったことです。立派な箱物をつくったとしても、まちづくりはそれで終わりではありません。その先の建物の維持・管理には、建設費と同等かそれ以上のコストがかかります。また、立派な箱物だけをつくっても、そこへのアクセスが不便なままでは十分に活用しきれません。自治体にはこうした視点が欠けてしまいがちです。だからこそ、まちづくりに知見のあるデベロッパーがサステナブルなまちづくりを強く意識し、たとえば新しく大きな建物を建てる代わりに、分散している既存の施設をデジタルでつなぐ、箱物から離れ循環型社会を支えるインフラを整えるといった提案をする必要があります。

一方でデベロッパーは、サステナブルではない開発の要請は断る勇気も必要です。私がかつて勤務していた森ビルには、全国から「〇〇ヒルズ」をつくりたいという要望が寄せられていましたが、そのすべてを断っていました。なぜなら、六本木ヒルズや麻布台ヒルズのような高層建築を前提にした大規模開発は、周辺に相応の人口がいることではじめて成立するからです。東京とは異なる特性を持つ地方の街が、東京の真似をしてもうまくいかないのです。従来型の箱物や東京のコピーのような街を求める自治体の夢に唯々諾々と従うするのではなく、より踏み込んで、その地域に合ったまちづくりを提案するべきです。

21年7月、新型コロナ禍の中で、三重県多気町にサステナブルな複合リゾート施設『VISON』がオープンしました。伊勢神宮から車で20分ほどの距離にあるこのリゾートは、もともとはゴルフ場の建設予定でしたが、もはやそういう時代でもないという判断から、自然に溶け込み、多様な食や文化を楽しめる場として構想されました。プロジェクトを牽引したのは三重出身の実業家・立花哲也氏で、キユーピーによる自給自足農園やロート製薬による薬草湯などが揃っています。

このエリア内ではふんだんに木材が使われていて、ほとんどの建物が木造ですが、これは、伊勢神宮で20年ごとに行われる式年遷宮からヒントを得たもので、循環型社会を意識しています。地域の特性を活かしたこのVISONは、これからのまちづくりの一つのいい例と言えます。

地方の課題をサステナブルに解決する日本最大級の商業施設『VISON』

不動産業界はもともとマルチステークホルダー経営を実践してきた

サステナブルな社会づくりに向け、不動産業界は大きな責任を負っています。

堀内氏:不動産業界の中にもいまだに従来型の発想を捨てられず、サステナブルではないまちづくりに参画し、サステナブルではない経営を行っている企業もあります。そうした企業が変わるには、経営者自身が考えを改めることで、企業文化そのものを改める必要がありますが、それは容易なことではありません。しかし時代の流れは急で、これまでのように「そこに土地があるから」という理由でただ建物を建てて売るというだけでは、不動産会社としての存立基盤が危うくなるのではないでしょうか。

東京に限らず、まちづくりを手掛けてきた地場企業はもともと、自社の短期的な利益だけを求めてきたわけではないはずです。まちづくりにはあらゆるステークホルダーからの同意が必要です。なぜそうしたまちが必要なのか、それによってどのような経済的・社会的価値が生まれるのかを説明し納得してもらったうえで、時間をかけてまちづくりに取り組んできたはずです。焦って目先の利益にとらわれなくても、地域経済全体の底上げができればいずれは自社にも利益が還元されることをわかっていたはずです。近江商人の「三方よし」の経営に見られるように、まちづくりを行ってきた企業も、昔からマルチステークホルダー経営をしてきたのです。

その自負を持って、まちづくりを担う企業の経営者は衣食住の一端を担う住について今後も向き合っていくべきでしょう。その際には、企業の経営者としてだけではなく、個人としての生活者の視点も欠かせません。自分だったらどんなまちに住みたいかを改めて考えることが、まちの社会的価値を最大化することにつながるはずです。

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