本人確認は紙の書類でなくてもできる。 オンライン本人確認について

2024/04/25

新型コロナウイルス感染症拡大によって、非対面・非接触が推奨されたこともあり、オンラインを活用した業務の変更は加速度的に進んだといえます。また、さまざまな手続きを行うとき、あるいは取引を実行する際に相手が確かに本人であるのかどうかの確認は以前よりも重視されるようになりました。背景にはなりすましによる犯罪が確認されるようになったこともあるでしょう。そうした中、オンライン本人確認への注目が高まっています。今回は、オンライン確認の特徴やその仕組みについて確認していきましょう。

本人確認とは

本人確認は、KYC(Know Your Customer)とも呼ばれ、金融機関におけるマネーロンダリングおよびテロ資金供与対策のための規制として設けられた「犯罪による収益の移転防止に関する法律」から発生した概念です。不正な取引によって資金がテロ組織へと流れたり、犯罪につながったりすることがないように、金融機関の窓口や特定事業者が顧客と対面して申請を受けた際に、対面している人物が本来、資金を移動させる権利を持った本人であるかどうかを書類によって確認することが定められました。
現在、本人確認を必要とするシーンが増えています。例えば、自治体においては、戸籍謄本・戸籍抄本、住民票の写しといった証明書の交付申請を受けた場合、窓口で申請した人が本人であるかどうかを確認するために確認できる書類の開示を求めることは日常的な作業でしょう。
こうしたシーンは2008年(平成20年)5月1日より、改正戸籍法・住民基本台帳法が施行され、証明書の交付申請の際には本人確認書類で本人確認をすることが法定化されたことによるものです。
また、銀行で口座を開設する際にも必ず本人確認が行われますし、同様に、クレジットカードを発行する際にも、さらに身近なところではスマートフォンを購入する際にも本人確認が行われます。
このように本人確認がさまざまな場面で必要となったのには、「なりすまし」によって不正に証明書を入手したり、取引を行ったりする事件が多発していることが背景にあると考えられます。

本人確認の方法

では、どのような方法で本人確認がなされるのか、確認しておきましょう。

個人情報については、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第5章(行政機関等の義務等)(以下「個情法第5章」という。)及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成25年法律第27号。以下「番号法」という。)では、行政機関の保有する個人情報・特定個人情報(個人番号を含む個人情報)の取扱い、開示請求等の本人関与制度等について規定しています。

経済産業省が示している「本人確認について」によると「個情法第5章及び番号法に基づく保有個人情報・特定個人情報(個人番号を含む個人情報)の開示等請求は、本人、法定代理人、任意代理人のみが申請することができます」として、「当省においては、申請者の本人確認を以下のとおり実施しています」と明記し、それぞれの状況に応じた確認方法が示されています。

窓口で行う本人確認

本人による窓口申請の場合「本人確認書類1点の提出」
本人確認書類を窓口に提示または提出します。
法定代理人による窓口申請の場合「戸籍謄本+本人確認書類1点の提出」
法定代理人本人の上記の本人確認書類に加えて、法定代理人としての資格を証明する書類として、戸籍謄本とその他の資格を証明する書類(戸籍抄本、家庭裁判所の証明書、登記事項証明書。いずれも開示請求をする日前30日以内に作成されたものに限る)を提示または提出します。
任意代理人による窓口申請の場合「委任状+本人確認書類1点の提出」
任意代理人(申請をする本人が委任した代理人)が窓口申請をする場合には、任意代理人の本人確認書類に加え、任意代理人としての資格を証明する書類として委任状(開示請求をする日前30日以内に作成されたものに限る)の提示または提出を行います。
委任状は委任者の実印を押印したうえで、その印鑑登録証明書(開示請求をする日前30日以内に作成されたものに限る)か、委任者の運転免許証、個人番号カードなどの身分証明書の写しを提出する必要があります。

郵送による申請においての本人確認

上記に示した「本人による申請」「法定代理人による申請」「任意代理人による申請」で必要とされる本人確認書類が2点必要になります。

本人確認書類

本人確認書類と認められるものは次のような書類です。

個人情報の保護に関する法律施行令第21条第1項第1号に規定する本人確認書類
運転免許証、健康保険の被保険者証、個人番号カード(※個人番号通知カードは不可)、住民基本台帳カード(※法令の規定により個人番号カードとみなされるもの)、在留カード、特別永住者証明書、外国人登録証明書(※法令の規定により特別永住者証明書とみなされるもの)
その他法令の規定により交付された書類であって本人を確認するに足りるもの
小型船舶操縦免許証、運転経歴証明書、猟銃・空気銃所持許可証、宅地建物取引主任者証、恩給証書、児童扶養手当証書、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳
個人情報の保護に関する法律施行令第21条第1項第2号に規定する行政機関の長が適当と認める書類(やむを 得ない理由により上記の書類を提示又は提出することができない場合に限る。)
旅券、外国政府が発行する外国旅券、船員手帳、海技免状、無線従事者免許証、認定電気工事従事者認定証、調理師免許証、印鑑登録証、療育手帳、敬老手帳、り災証明書、国立大学の学生証等、個人情報の保護に関する法律施行令第21条第1項第1号に規定する書類が更新中に発行される仮証明書や引換証類

オンライン本人確認の登場とその方法

オンライン本人確認の登場とその方法

本来、住所変更の申請等で必要となる本人確認は対面で本人確認に必要な書類を提示あるいは提出することでなされます。対面で行えない場合は、さらに確認書類を複数用意し、郵送によって行います。
しかし2018年11月に犯罪収益移転防止法施行規則が改正・施行され、新たに非対面での本人確認法であるオンライン本人確認(eKYC:electronic Know Your Customer)が可能になりました。さらに2020年4月にも改正が行われ、本人確認方法が一部厳格化されました。この改正によって、本人確認書類として認められるのは運転免許証や個人番号カードといった顔写真付きのものに限定されています。
オンライン本人確認(eKYC)が可能になった背景には、窓口や郵送によって行う必要があった本人確認は時間と手間がかかるので、申請をする側にとっても、申請を受理する側(自治体や企業)にとっても利便性が悪いという現実がありました。また、IT技術が進歩し、セキュリティ面も含め、オンライン利用がしやすくなったこともあるでしょう。

オンライン本人確認(eKYC)の方法

オンライン本人確認(eKYC)はオンラインで本人確認が完結できる仕組みです。
オンライン本人確認はいくつかの方法がありますが、どの方法も「身元認証」と「当人認証」によって本人であることを確定しています。
身元認証は、氏名・生年月日・住所といった本人特定事項が記載された証明書、例えば、免許証や健康保険証、個人番号カードなどを所持して、記載された住所に住んでいることを確認することです。
当人認証は、身元認証で用いた証明書に記載されている人物が、申請等手続きをしようとしている本人であることを証明するものです。認証には顔写真による生体認証が利用されます。
オンライン本人確認(eKYC)の方法の中からいくつか確認しておきましょう。

個人顧客向け

犯罪収益移転防止法施行規則 第6条第1項第1号 ホ
特定事業者が用意したアプリケーションから顔写真付き本人確認書類の画像+容貌の画像を撮影して送信してもらうことで本人確認がなされます。
犯罪収益移転防止法施行規則 第6条第1項第1号 ヘ
特定事業者が提供するアプリケーションを使用して、本人確認用画像と写真付き本人確認書類に組み込まれているICチップ(半導体集積回路)に記録された当該情報を送信してもらいます。この2つの情報によって本人確認がなされます。
犯罪収益移転防止法施行規則 第6条第1項第1号 ト
特定事業者が提供するアプリケーションを用いて運転免許証などの本人確認書類を撮影して画像を送信してもらった後、特定事業者は本人が使用している銀行またはクレジット会社に問い合わせを行い、本人確認をする方法です。
犯罪収益移転防止法施行規則 第6条第1項第1号 ワ
個人番号カードのICチップに付与された公的個人認証を読み取り、公的個人認証局にその有効性を確認することで本人確認をする方法です。
犯罪収益移転防止法施行規則 第6条第1項第1号 ヲ・カ
電子証明書と電子署名が行われた特定取引等に関する情報を特定事業者(たとえば金融機関等)へ送信します。特定事業者において、電子署名を検証したうえで、電子証明書の有効性を確認する方法です。

法人顧客向け

犯罪収益移転防止法施行規則 第6条第1項第3号 ロ
顧客法人に法人の名称および本店などの所在地を申告してもらいます。そして登記情報提供サービスの登記情報を確認することで本人確認を行います。
犯罪収益移転防止法施行規則 第6条第1項第3号 ホ
顧客法人に「電子証明書」と「電子署名が行われた特定取引等に関する情報」を送信してもらいます。その後、電子証明書の有効性を電子認証登記所に確認を行い、さらに電子署名を検証することで本人確認を行います。

オンライン本人確認を活用するメリット・デメリット

オンライン上で完結することができるオンライン本人確認のメリットやデメリットについて確認しておきましょう。

メリット

メリットの特徴は本人確認をする本人にとって、自治体の職員や銀行の行員といった本人確認を請求する側にとっても、時間やコストの削減ができるという点です。以下に代表的なメリットを確認しておきましょう。

本人確認スピードアップにより業務効率が向上
本人確認スピードアップにより業務効率が向上

精度の高い本人確認ができる

eKYCでは、リアルタイムで撮影した本人確認書類の写真と合わせて、本人の容貌写真の送信を必要とする方法を用いることが一般的です。容貌写真の生体的特徴を照合することで、eKYCを行っているのが本人であることを確認できるので、なりすましなどの不正を防げます。

本人に窓口に来てもらう必要がない

オンラインで本人確認をするeKYCを導入することで、確認をする自治体の窓口や銀行窓口に本人が出向かなくても、インターネットが接続できている環境であれば、情報を送るだけで確認ができます。窓口に行かなくてもよい、ということは移動時間、移動コストなどの削減ができるので、本人にとっての利便性は向上します。また、自治体の職員や銀行の行員にとっても、窓口で本人確認に訪れた人物に対面で対応し、その場で確認をする作業をこなすという時間と作業がなくなるため、他の業務に時間を使えるようになります。

書類をそろえて郵送する手間がない

本人確認をするための書類を郵送する場合なら、本人確認書類として何が必要で、どのような形式でコピーをしてもらうのか、また書類に記入する際の注意点などを明確に伝えなければなりません。しかし、eKYCが導入されることで、例えば、運転免許証や健康保険証のコピーを郵送してもらう必要がなくなります。

本人確認作業の効率化が図れる(郵送物の確認、書類の保存と破棄など)

自治体の職員や銀行の行員は、届いた封書を開封して、確認し、個人情報が漏洩しないように確認後は所定の方法で保存、あるいは適切に処理をするなどの作業が削減できます。こうした作業負担の軽減、効率化は、時間やコストの削減につながります。

デメリット

多くの人にとって利便性が高まる一方、かえって使いにくいと感じる人が取り残されるおそれがあります。また、システムトラブルが発生すると、確認できないケースや認証されないといったケースが発生するおそれもあります。以下にデメリット代表的なものをみておきましょう。

ITリテラシーが低い人にとっては手続きが難しい

eKYCが導入されると、インターネットを経由して本人確認ができるようになるため、場所を問わず、必要なときに必要書類等を送信できる一方で、スマートフォンやパソコンなど、端末を使い慣れていない人にとっては、やり方がわからない、手順が複雑だ、などの不安や不便さを強く感じるケースもあります。

ITリテラシーの低い人への対応にコストがかかる

本人確認をする必要のある個人が自分で端末を操作して、必要な手順をふむことで作業が進むeKYCにおいては、ITリテラシーが低い人に、その操作のやり方を説明するための準備をしておく必要があります。例えば、チャットボットを用意する、導入前に多くの利用者が手に取るように図解入りの説明書を事前に手配しておく、サポート体制を整えておくといったことなどが必要になります。このような対応を準備するための時間やコストが発生します。

書類不備の発生(一定の品質を担保した画像が必要になる)

eKYCでは、本人が自撮りした書類や顔認証ができるものを用意してもらう必要があります。そうした写真画像がうまく認証できる状態でなかった場合、審査が通らず、何度も本人はやり直しをしなければなりません。また、自治体の職員や銀行の行員にとっても、スムーズに認証作業が進まず、工数が増えるおそれもあります。

システムエラーの発生によって、確認作業がストップする、認証エラーで確認できないことがある

eKYCはインターネットが接続された環境で操作する必要があるため、インターネット回線に不具合が生じた場合や、システム自体にエラーが発生した場合は、修復されるまで認証ができない状態が続きます。

オンライン本人確認の活用事例

自治体における本人確認を求める場面は多々あります。そうした本人確認のやり方をオンラインを活用した方法へと変更する動きがでてきています。ただ、具体的にどこから始めればよいのか、という問題は決断が難しいものです。そうした場合は、まず「住民の悩みはなんであるのか」という視点で考えることが重要です。また、オンライン本人確認を活用するのは「目的は何なのか」「何をどこまで確認したいのか」「なぜ確認が必要なのか」を明らかにして、それぞれの手続きにおいてどのような本人確認手法を選択すべきなのかを検討することが重要です。

では活用事例を参考にみておきましょう。

金融機関での口座開設等におけるオンライン本人確認の活用

金融機関で銀行口座や証券口座を新規に開設するさいは本人確認を行うことが必須になっています。これは口座開設業務が犯罪収益移転防止法(犯収法)の特定業務となっているからです。ネット銀行やネット証券を利用する場合は、インターネット上で取引が完結するようにサービスが提供されています。そうしたケースでは本人確認はオンラインで行えるようにeKYCが導入されています。

福島県田村市における「たむらスマイルデジタル商品券」利用時の公的個人認証

福島県田村市では、「たむらスマイルデジタル商品券」と呼ばれる、市内登録店で利用できるデジタル商品券を販売・展開しました。この商品券は田村市民以外でも購入して使用することができるものです。ただ、市民には限定特典として、「付与型デジタル商品券」が用意されていました。これはマイナンバーカードを取得して申し込んだ先着15,000名に4,000円分のデジタル商品券が付与されるというものです。

ここで必要なのが市民であることの確認です。

付与型デジタル商品券の申請において、TRUSTDOCKのデジタル身分証アプリを活用したマイナンバーカードによる公的個人認証の仕組みが導入されました。これによって、市民であることが証明されるわけです。

まとめ:オンライン本人確認の活用で、自治体業務のデジタル化を促進させる

オンライン本人確認の活用がされれば、自治体における業務負担の軽減も可能となり、利用者にとっても場所や時間を問わない行政サービス活用の幅が広がることになります。つまりは自治体業務のデジタル化を促進ささる取組のひとつでもあるといえます。一方で、スマートフォンやパソコンといった端末を使い慣れていない人や、対面で説明を受けながら手続きをすることが安心だと感じている人にとっては、書類の準備やオンラインでの操作を自分で行うことになるeKYCは不安で不親切なシステムだと感じることもあるでしょう。

こうした二面があることを理解したうえで、自治体の職員の働き方改革につながり、多くの利用者の利便性を向上させるための取組のひとつとして進めていくことが大切です。

また、ITリテラシーが低い状態にある人にとっても使いやすいシステムとなるように、導入の前に、詳しい説明書を配布する、チャットボットを用意する、問い合せに対応するカスタマーセンターを準備するなど、一定の期間は時間と人材を割いてでも、多くの人に理解をしてもらう体制の必要性も考慮しておくのがベストだといえるでしょう。

※本記事は更新日時点の情報に基づいています。

監修者プロフィール

松藤 保孝 氏

一般社団法人 未来創造ネットワーク 代表理事
松藤 保孝

自治省(現総務省)入省後、三重県知事公室企画室長、神奈川県国民健康保険課長、環境計画課長、市町村課長、経済産業省中小企業庁企画官、総務省大臣官房企画官、堺市財政局長、関西学院大学大学院 法学研究科・経営戦略研究科教授、内閣府地方創生推進室内閣参事官等を歴任し、さまざまな政策の企画立案、スリムで強靭な組織の構築、行政の業務方法や制度のイノベーションを推進。一昨年退官後、地域の個性や強みを生かすイノベーションを推進する活動を行う。

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