自治体DXの進め方。 取り組むべき課題と有効な手段を解説

2023/09/06

各企業でDXへの取り組みが加速度的に進められ、業務の効率化や新しい価値創造に対応できる組織構築をめざした対策が効果をあげつつあります。そうしたなか、住民の生活を支える業務を担う自治体DXの進捗はどういった状況なのでしょうか。

実は自治体のなかにもデジタル化・IT化を進め、AIの導入を本格的におこなって住民の利便性を高めつつ、職員への業務負担軽減に成功しているところが増えてきています。自治体通信ONLINE「公務員にこそ働き改革は必要かつ可能!推進の現状や取り組み事例を解説【自治体事例の教科書】」にも取り上げられるように、働き方改革が進みにくいといわれる自治体ですが、テレワークへの体制づくりをおこない、実施に踏み切っているところもあります。

今回はまだこれから本格的にDXを進めていく、あるいは、取引先の民間企業と連携したDXや、地域全体のDXの推進の参考となる内容を紹介します。

自治体が進めるDXとはどういったものなのか

DX(デジタルトランスフォーメーション)が各企業において進められています。

改めてDXの定義を確認しておくと「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第三のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両方での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」と総務省「情報通信白書 令和3年版」のなかに示しています。

DXと混同されやすいのがデジタル化・IT化です。DXの目的が単なるデジタル化・IT化になってしまうと、本来の目的である新しい価値を創造に、競争上の優位性を確立するところへは到達できないおそれがあります。

DXとデジタル化・IT化の違い

DXを実現させるには、デジタル化・IT化の推進なしには考えられません。デジタル化・IT化は従来紙ベースの情報を手作業で処理していた業務を、データを使いデジタルで処理ができるようにしていくことです。紙で作成していた帳簿類をデジタル化・IT化することで、経費の推移をグラフ化し、課題を見つけやすい環境へと整えていくことができます。つまり、デジタル化・IT化というのは、業務を見直し、より良い状況へと変革するためのひとつの手段なのです。

一方、DXというのは、より良い環境と体制を構築するための手段、プロセス、そしてゴールをすべて含めた概念です。

業務を見直しDX実現までのプロセスを示すと『DX > デジタライゼーション > デジタイゼーション』ということになります。

デジタライゼーションというのはアナログ・物理的な情報をデジタル化していくことをいいます。たとえば、取引記録や紙ベースの帳票などをデジタルデータにして保存できるように変更していく段階です。

デジタイゼーションというのは、それぞれの業務プロセスをIT化していくことをいいます。デジタイゼーションは業務プロセスが自動化される段階です。

DXの基本的な進め方

改めてDXの基本的な進め方を紹介しますが、民間企業における進め方とおなじ方法で進めても、自治体においてはスムーズに行かないことも考えられます。理由は、自治体は常に住民や地域企業の申請や手続きといった個別の案件に対応することが多く、何よりも優先させるべきことが利用者の利便性と手続きの正確性とされる傾向があるからです。そのことを踏まえ、まずは、基本的なDXの進め方を紹介したのち、自治体で進めるための方法・ポイントを紹介します。

【一般的な企業におけるDXの進め方】

DXの目標を明確にする

まず、DXを実現するのは何のためなのか、実現したいのはどういった姿(組織・ビジネスモデルなど)なのかを明確にします。

経営層・従業員がDX推進を理解する

DXは特定の部署だけで進めるものではありません。経営層(首長)がDXの必要性を理解し、現場の従業員(職員)の人員・体制・業務内容などを把握したうえで、社内全体で取り組まなくては成功に至りません。そのため、まず経営層(首長)がDXへの取り組みに積極的にかかわり、必要な投資をおこない、従業員(職員)の理解を深める周知もおこなう必要があります。従業員(職員)の同意と理解がないと、既存の業務をデジタル化・IT化することに戸惑いが強くでたり、属人化した業務を標準化することへの反発がでたりします。

組織内の課題や老朽化したシステムを洗い出す

現状を正確に把握して、課題点を明らかにします。そして、刷新すべきシステムや業務プロセスをチェックしてムリ・ムダ・ムラのでている業務を洗い出す必要があります。

DXを進める方向性と優先順位を決める

現状の課題が明確になった段階で、どのように進めていくのかを決めます。そして、決まった方向性に沿ってどこから進めていくのが最適であるかを考え、取り組む優先順位を決定します。まずはスモールスタートを心がけ、デジタル化・IT化しやすい業務からはじめ、拡大していくようにします。

現場での業務のデジタル化・IT化を進める

優先順位が決まった段階で、取り組みやすい現場の業務からデジタル化・IT化を実施します。たとえば、手作業でおこなっていた入力作業を自動化したり、押印が必要であった承認作業をデジタルでおこない、ハンコを廃止したりするところからスタートします。こうした細かな業務には反対意見がでにくいことや、属人化した作業が含まれていないケースが多いため、進めやすく、業務のデジタル化・IT化やDX推進の効果として実感しやすいといえます。

業務フロー全体をデジタル化・IT化していく

現場での細かな業務のデジタル化・IT化が進んだ段階で、業務フロー全体のデジタル化・IT化を進めます。勤怠管理や経理処理などをデジタル化・IT化することで、大幅に業務の効率化が向上します。

定期的なPDCAサイクルによって修正を加えながらDXを推進する

業務フロー全体のデジタル化・IT化を進めつつ、定期的にPDCAサイクルによって見直しと修正を繰り返します。また、DXの目標や方向性を再確認して、デジタル化・IT化で取り組みが止まっていないか、新たな問題が発生していないかなども確認することが大切です。

【自治体におけるDXの進め方とポイント】

自治体に関しては、まずはデジタル化できる業務を速やかに洗い出し、デジタル化を図ります。

たとえば、数字の確認や転記、紙の書類の受け渡し、計算や集計、データの整理と保管などの業務はデジタル化を図り、自動化することによって、住民にとっても手続きのための負荷の軽減や時間の短縮が実現できることになります。さらに、自治体の職員の業務効率化やミスの軽減にもつながります。

こうした具体的にデジタル化を図れるところから、先行して取り組むことで、その結果、さまざまなデータが蓄積され、DXの方向性も明らかになると考えられます。

自治体がめざすべき姿は「住民に身近な自治体」と業務の見直し

総務省は、めざすべき社会のあり方を「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会 誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」と示し、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定したなかで、自治体におけるDX推進は、めざすべきデジタル社会のビジョンと位置付けています。つまり、住民にとって身近な行政を担う自治体こそがDXを実現しなければならないとしています。

まず、自治体DXを推進することで求められているのは以下2点です。

提供している行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させること

たとえば各種申請手続きがオンラインでおこなえるようになると、住民は自治体の受付窓口に足を運ぶことなく、スマートフォンやパソコンといった端末から申請手続きができるようになります。また、自治体の開庁時間にしばられず、どこからでも手続きができるようになります。
さらに、SNSやLINEといったアプリケーションを導入している自治体が増えてきているように、そうしたアプリケーションを活用した情報発信が充実すると、迅速で的確な情報を住民はいつでも受け取ることができるようになります。

デジタル技術やAIなどを活用することで、自治体組織や取引先となる民間企業とのやり取りをスムーズにし、業務効率化を図り、人的資源を行政サービスのさらなる向上に活用できる体制を構築すること

たとえば、メールやFAXでのやり取りが主流であった見積書の依頼や受け取り業務はかなり煩雑なものです。それを一元管理ができるシステムを導入することで、労力も時間も削減できます。また、民間事業者との見積・契約・発注から請求業務まですべてをデジタル化・IT化する財務会計システムとの連携(BtoBプラットフォームの活用)をすることで、自治体も取引先となる民間事業者も業務効率化が推進できます。

こうした取り組みは、住民の利用しやすさやデジタルが活用できない住民へのフォローも考慮しながら進めることが重要です。

一方で、住民や地域の企業にとっても、DXは避けては通れません。DXを進めることにより、地域の企業にとっても大きく飛躍するチャンスにつながります。経済産業省のIT導入補助金なども活用しながら、他の地域に遅れることなく、地域の企業や住民と一緒にDXを進めていくことが大切です。

自治体DXの背景と取り組むべき事項とはなにか

では、なぜ企業に留まらず、自治体においてもDXの推進が求められているのでしょうか。

自治体DXの背景と取り組むべき事項とはなにか

自治体DX推進が求められる背景

まず、現状の日本における経済構造をみてみます。都市、なかでも東京においては現状でも労働生産性が高く、そのことがなおさら人が集まるメカニズムを創り出しています。ただ、このように東京が一極集中的に日本経済を牽引している構造はかなりリスクが高いともいえます。

一方、地方地域経済を見ると、デジタル化を進め、地域の独自性、優位性、特性の活用をめざすことが重要だと経済産業省が「ウィズ・ポストコロナ時代における地域経済産業政策の検討(全体的な方向性、地域DX)」のなかで報告しています。

地方・地域においては、国内、海外に対して価値を創造する取り組みを推進する必要があります。なかでも中小企業におけるデジタル化への推進は大きなカギとなるでしょう。

このように、日本の経済構造を見直し、地域の人、企業、資源が効果的に活用され、世界に競争力を発揮できる新たな日本の経済メカニズムを創造するためには、まずは、自治体が地域のDXをリードし、地域における課題解決や利用者の利便性向上を確実に実現していく必要があると考えられます。

もうひとつ、労働力に視点をおいて自治体DXの必要性を見てみると、次のことが考えられます。

現状の日本において、社会的な課題として生産年齢人口(15〜64歳)の減少が挙げられます。企業においても自治体においても、必要な人材の確保が難しい状況が今後もつづくと考えられています。

総務省が公表している「情報通信に関する現状報告の概要」に示された内容では、少子高齢化の進行によって、生産年齢人口は2021年で7,450万人、2025年には7,170万人さらに2050年には5,275万人と減少することが予測されています。一方、高齢化率は上昇をつづけ、2025年には30%、2050年には37.7%になると考えられます。

こうした傾向をさらに分析して考えてみましょう。

まず、生産年齢人口が減少するということは、自治体がいままで業務遂行のために活用してきた「ヒト・モノ・カネ」といったリソースが縮小することを意味します。たとえば、人口減少によって地域の行政を担うヒトが減ります。また、ヒトが減り、経済活動が縮小化すると、ひいては税収入も減少することになります。

一方、高齢化が進むことで、高齢者向けの介護・福祉にかかわる行政サービスは今以上に多様化することが想像されます。さらに一人ひとりの価値観や生活スタイル、ニーズが多様化している社会では行政に求めるものも多様化すると考えられます。

また、公務員の全体数も減少傾向を示しているため、高齢者への行政サービスにかぎらず、地域住民への円滑なサービスやゴミの収集といった地域の保健衛生を維持することも難しくなってきます。

こうした状況にスムーズに対応するためにも、自治体DX推進は急務であるといえるでしょう。

自治体の6つの重点取組事項

総務省が2020年12月に「自治体DX推進計画概要」のなかに、自治体が取り組むべき項目として「6つの重点取組事項」を示しています。

国がさまざまな支援体制を打ち出し、各自治体業務の標準化を策定したのは、「各自治体が独自にDXを進めると、その速度や導入効果に差が生じるなど、さまざまなデメリットが発生するおそれがあるため、そのデメリット回避のため」さらに「統一化・標準化したシステムを導入することで、従来各自治体が独自に運用管理していた負担を軽減することができ、職員の業務負担と住民の利便性向上が期待できる」というのがおもな理由として考えられます。

1. 自治体の情報システムの標準化・共通化

現在、手作業でおこなわれている17の基幹業務について、2025年までに統一化されたシステムへと移行が進められています。
おもな基幹業務とされているのが「住民基本台帳」「選挙人名簿管理」「固定資産税」「個人住民税」「法人住民税」「軽自動車税」「国民健康保険」「国民年金」「障害者福祉」「後期高齢者医療」「介護保険」「児童手当」「生活保護」「健康管理」「就学」「児童扶養手当」「子ども・子育て支援」です。

2. マイナンバーカードの普及促進

行政手続きがオンライン化されることで、時間や場所にしばられず、住民は必要な手続きをすることが可能になります。また、こうしたオンライン化によって、紙媒体による申請書を手作業で対応していた職員の業務が効率化され、相談といった個別の対応に時間を割けるようになります。

3. 自治体の行政手続きのオンライン化

デジタル化・IT化による利便性の向上を早期に享受できるようにするために、住民がマイナンバーカードを利用してオンライン手続きが可能な状態をめざしています。

4. 自治体のAI・RPAの利用推進

限られた人的リソースを有効に活用し、それぞれの職員のパフォーマンスを最大限活かせる環境を整えるためにも、自動化できる業務はAIやRPAの導入が始まっています。

5. テレワークの推進

情報システムの標準化・共通化や行政手続きのオンライン化といった業務見直しを推進することで、テレワークを進める動きが加速しています。こうした取り組みが進むことで、職員のライフスタイルに合わせた自由度の高い働き方を実現することが可能になります。
さらに、この取り組みは災害時の非常事態においても業務を継続できる体制づくり、つまりBCP(事業継続計画)の観点からも重要な取り組みだといえます。
こうした改革を実現することで、職員の人材不足改善に結びつけることも可能になります。

6. セキュリティ対策の徹底

自治体の担う業務は、住民一人ひとりの個人情報にかかわることです。こうした業務をデジタル化・IT化するにあたっては、万全のセキュリティ環境を構築する必要があります。
政府をあげてセキュリティポリシーガイドラインの改定をおこなったり、自治体が情報セキュリティクラウドへの移行を支援するための予算を組んだりしています。

デジタル社会の実現に向けた重点計画

2023年6月に「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されました。この重点計画というのは、日本がこれからめざすべきデジタル社会の実現に向けて、政府が迅速で重点的に実施すべき政策を明記し、各府省庁が構造改革や個別の施策に取り組み、それを世界に発信・提言するさいの羅針盤となるものだとしています。

まず、重点計画のなかでは、日本がめざすデジタル社会とは「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」であり「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」を進めることと明記しています。

そのうえで、デジタルによりめざす社会の姿として以下の項目を掲げています。

1. デジタル化による成長戦略

アーキテクチャの設計やクラウドサービスの徹底活用やAIの適切かつ効果的か活用によって、日本のデジタル競争力が底上げされ、成長していく持続可能な社会をめざします。

2. 医療・教育・防災・こども等の準公共分野のデジタル化

プッシュ型の情報提供の充実を図り、豊かな社会、継続的に力強く成長する社会の実現をめざします。

3. デジタル化による地域の活性化

地域からデジタル改革、デジタル実装を推進し、デジタル田園都市国家構想を実現。多様な就業機会の創出を図ります。

4. 誰一人取り残されないデジタル化

誰もが日常的にデジタル化の恩恵を享受でき、さまざまな課題を解決し、豊かさを真に実感できる社会をめざします。

5. デジタル人材の育成・確保

ICTスキルを継続的に学ぶことができることで、デジタル人材の底上げと、専門性の向上を図り、デジタル人材が育成・確保される社会をめざします。

6. DFFTの推進を始めとする国際戦略

データがもたらす価値を最大限引き出し、国境を越えた自由なデータ流通が可能菜社会の実現をめざします。

と6項目において重点計画の基本的な考え方とめざす方向性を示しています。

さらに各分野における基本的な施策として

国民に対する行政サービスのデジタル化

安全・安心で便利な暮らしのデジタル化

アクセシビリティの確保

産業のデジタル化

デジタル社会を支えるシステム・技術

デジタル社会のライフスタイル・人材

の各施策における具体的な取り組みをしめしています。
デジタル社会の実現に向けた重点計画(デジタル庁)の概要についてはこちらのサイト(PDF)でご確認いただけます。
具体的な施策についての詳細は「デジタル社会の実現に向けた重点計画(PDF)」を参照ください。

国は地方自治体のDX実現への取り組みを支援するとともに、「デジタル田園都市国家構想」を打ち出し「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」の実現をめざしています。その具体的な支援として「デジタル田園都市国家構想交付金」が設定されています。この交付金には以下の3タイプがあります。

デジタル実装タイプ

デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上の実現に向けて、デジタル実装に必要な経費を支援するもの。

地方創生拠点整備タイプ

地方創生推進タイプ

「地方創生拠点整備タイプ」「地方創生推進タイプ」は、デジタルの活用によって観光や農林水産業の振興などの地方創生に資する取り組みや拠点施設の整備などを支援するもの。

自治体DXを効果的に進める手法とはなにか

上記に示した重点取組事項を効果的に、効率的に進めるにはどのような手法を用いればよいのでしょうか。

自治体DXを効果的に進める手法とはなにか

自治体の課題と効果的な対策

自治体の現状をみると、DXを推進するにあたり、組織内、部署内に存在する課題として、以下の点が考えられます。それぞれの課題と効果的な対策をみてみましょう。

職員減少

AIやロボティクス、経理・事務作業を管理できるプラットフォームなどの活用による業務の自動化、電子申請による作業の軽減を図ることで、住民の利便性の向上にもつながります。たとえば住民からの申請手続きや問い合わせへの対応の一部をAIを活用したチャットボットなどで代行することによって、職員の業務負担が軽減され、職員数の増加がすぐには見込めない状態でも、効率良く、より創造的な業務に人的リソースを割けるようになります。

自治体ごとの、また、各自治体内でも組織・部署の管轄意識の高さ

垣根をはずし情報共有できる体制の強化(コミュニケーションツールやナレッジ共有ツールの活用など)することで、各部署ごとに重複して管理している情報を整理することができるほか、法令や先進事例などの事実関係の調査など、ムダな作業を削減できます。

手作業による膨大な作業からの脱却

ワークフローシステムなどの活用によって作業の自動化、効率化を図ることができます。たとえば、自治体と民間企業間の取り引き(見積・発注・契約・請求業務)をデジタル化・IT化することで自治体および管轄する民間企業の業務を効率化し、生産性の向上も期待できます。

デジタル人材の不足

デジタル化・IT化を推進し、DXを牽引していける人材の採用と育成

DX推進を牽引していくための人材を確保したり、自治体内で職員を育成したりすることも重要ですが、どちらも時間がかかります。民間企業と連携をし、DXを進めることで、民間企業のデジタル専門人材が起用できるので、効率的だといえるでしょう。

自治体DXの成功4事例

では、具体的に自治体がDX推進に向けて取り組みをしている事例から、参考にしたい成功事例をみてみましょう。

① 千葉県千葉市:集団がん検診の予約受付業務、受診率改善への取り組み

千葉市では集団がん健診予約受付業務を民間企業に委託をしています。委託を受けた民間企業では、集団がん検診の予約枠やその予約フローを整備したうえで、オンライン予約サービスとコールセンターを用いた予約受付を実施。オンラインもしくは電話による予約受付を可能にしたことで、住民への受診機会の確保と予約利便性の向上を実現しました。

② 滋賀県:県と市町がシステム調達・利用を共同で取り組み、事務と経費の負担を軽減

滋賀県では県内14市町と共同でシステムを調達・利用することで、調達・導入にかかる職員の事務負担と費用負担の軽減を図っています。この取り組みの背景には、住民が行政手続きの申請をするさい、必要書類の判断が困難な場合があること、また、市町において住民からの問い合わせ対応が事務負担となっていたこと、などの課題がありました。そこで県主導で、県内の14市町(試験運用は大津市、草津市、湖南市の3市)と共同研究事業を実施しました。統一したシステムを導入することで、住民にとって使いやすい手続きのインターフェースを構築でき、ワンストップでの行政手続きが可能となります。

③ 北海道恵庭市:税務課主導のRPAプロジェクトで16業務の効率化に成功

時間外労働の削減が課題であった恵庭市では、2019年に「税務課RPA検討プロジェクト」を発足させ、業務の効率化を推進してきました。そして、2020年にRPAソフト「WinActor」を導入すると同時に、導入時のサポート業務を販売元である民間企業に依頼しました。さらに同年の秋にはAI-OCRサービスである「AIよみと〜る」を導入。税務課の業務を中心に16業務で効率化、最大65%の業務削減が実現しました。

➃ 愛知県瀬戸市:電子決裁機能付き文書管理システムを導入しペーパーレス化を促進

一部の部署で試行していた電子決裁機能付きの文書管理システムを全庁で本格的に運用したことで、行政事務のペーパーレス化を促進することをめざしました。またファイリングシステムを導入し、文書の検索時間を短縮、情報の一元管理による組織対応力の向上、また、期限満了文書破棄の円滑化など、業務の効率化を図っています。

まとめ: 自治体DXはその地域の魅力を高めるための取り組み

自治体が担っている役割は、その地域に生活する人々を支えることです。自治体がDXを達成することで、教育や子育て、介護・福祉などより充実した多くのサービスを提供できれば、住民はその地域に住みたい、住み続けたいと感じます。また、そうした魅力的な地域には人が集まる可能性が高まります。地域人口が増え、地域経済が活性化されれば、その地域で企業活動をする企業にとっても市場が活性化することにもなります。

地域のDXが実現されることで、住民の利便性が向上するのみならず、地域で活動する企業も活性化されるといえるでしょう。

そのためには、まずできることは積極的に、速やかに、デジタル技術を活用する必要があります。さらに、AIやロボティクスといった最先端技術を活用することで業務効率化や自動化を実現し、職員の働き方改革も進めることも可能です。

充実した行政サービスが受けられる環境を構築しすることで、地域、ひいては日本の魅力は高まるものと考えられます。

そのための取り組みが自治体のDXであることを改めて認識し、まずは、できることからデジタル化を進めていきませんか。

※本記事は更新日時点の情報に基づいています。

監修者プロフィール

松藤 保孝 氏

一般社団法人 未来創造ネットワーク 代表理事
松藤 保孝

自治省(現総務省)入省後、三重県知事公室企画室長、神奈川県国民健康保険課長、環境計画課長、市町村課長、経済産業省中小企業庁企画官、総務省大臣官房企画官、堺市財政局長、関西学院大学大学院 法学研究科・経営戦略研究科教授、内閣府地方創生推進室内閣参事官等を歴任し、さまざまな政策の企画立案、スリムで強靭な組織の構築、行政の業務方法や制度のイノベーションを推進。一昨年退官後、地域の個性や強みを生かすイノベーションを推進する活動を行う。

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