デジタル田園都市国家構想で地方も都市も 魅力あふれる社会をめざす

2023/12/25

政府がめざしている「新しい資本主義」のなかで重要な柱のひとつになっているのがデジタル田園都市国家構想です。デジタルの力で、誰もが自分らしい幸せを実現できる社会をめざしているのだとされています。では、この国家構想は、具体的に何がどのように変わり、どのように進められていくのでしょうか。今回は、デジタル田園都市国家構想の概要と、構想の背景となった社会課題などを、わかりやすく紹介します。

デジタル田園都市国家構想とは

デジタル田園都市国家構想というのは、政府がめざしている「新しい資本主義」の重要な柱のひとつとされています。2021年に岸田文雄内閣総理大臣の下で発表された構想です。
では、デジタル田園都市国家構想がめざす社会とはどういったものなのか、また、何を目的に進めている構想なのかについて、具体的にみていきましょう。

デジタル田園都市国家構想がめざす社会

デジタル田園都市国家構想でめざしている社会とは、デジタル技術を活用して、地方の個性を活かしながら、社会課題の解決と魅力の向上を図り、地方に都市の利便性を、都市に地方の豊かさを実現して、全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会です。

デジタル田園都市国家構想が出された背景

政府が総力を挙げて実現をめざしているデジタル田園都市国家構想が出された背景になったのは、どういった現実なのでしょうか。

地域格差の存在

現在、都市部と地方ではさまざまな格差があります。
人口をみると、地方では人口流出による人口減少や少子高齢化による労働力不足が大きな課題になっています。一方、東京圏を中心とした都市部では、人口増加や生産年齢人口の集中が確認されます。
また、人が一方向へ集中する動きは地域産業の空洞化を招き、地方の人口減少に歯止めがかからないといった悪循環を発生させています。さらに、産業の空洞化は地方での労働生産性の低さや賃金格差も生み出しています。
人口が集中しやすい都市部においては住宅問題や待機児童の問題など、生活を快適に営むための環境整備という面で、問題が発生しています。
教育や医療の機会という視点で地方と都市部を比べると、地方では少子高齢化が加速度的に進むなか、教育機会、文化芸術に触れる機会、さらに医療の質と機会の減少が問題になっています。
こうした地方と都市部との格差をなくし、地域の豊かさをそのままに、都市と同じ、あるいは異なった利便性と魅力を備えた、新たな地域づくりをめざしているのがデジタル田園都市国家構想だ、と政府は位置付けています。

デジタル田園都市国家構想実現のための体制と支援

デジタル田園都市国家構想を実現するために、さまざまな体制が組まれ、支援が設けられています。それらをみておきましょう。

デジタル田園都市国家構想実現会議の設定

デジタル田園都市国家構造実現会議は、デジタル田園都市国家構想を実現するための組織です。
地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていくことを目的のひとつにしています。また、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」の実現に向け、構想の具体化を図るとともに、デジタル実装を通じた地方活性化を推進するための活動を起こす組織として位置付けられています。
2021年11月に第1回の会議を開催して以降、2023年6月までに13回の会議が開催されました。

デジタル日本改造ロードマップの作成を提案

経済産業省で2022年1月に開催された「第2回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会」において、デジタル田園都市国家構想の実現に向けた「デジタル日本改造ロードマップ」を示すことが提案されました。
そのなかで、さまざまなプラットフォームにあるデータが連携する基盤の整備、デジタルインフラへの投資、再エネ電力の供給に最適なエネルギーインフラ、高速通信網を使った自動運転や自動配送に対応した交通・物流インフラとの一体的な整備などの道筋、支援の枠組みを含めた全体像を「デジタル日本改造ロードマップ」として示すという提案がなされています。
デジタル日本改造ロードマップを作成することで、大規模なデジタル投資を引きだし、デジタル田園都市の実現をめざしたものです。

デジタル田園都市国家構想に関わる交付金により地方自治体を支援

デジタル田園都市国家構想において、地方と都市の格差問題を解決するためにデジタルの力を活用することになります。具体的な取り組みを実施し、地方の課題解決のモデルケースとなるようなものに対して交付金による支援をしよう、というのがデジタル田園都市国家構想推進交付金です。
デジタル田園都市国家構想推進交付金には大きく分けて2つのタイプが用意されています。

デジタル実装タイプ

デジタルを活用して地域の課題を解決し、魅力向上を実現するための取り組みを実行している地方公共団体に対して交付されるものです。具体的には、データ連携基盤を活用して、複数のサービス実装を実現するための取り組みや、人手不足に対応するドローンやロボットを活用したスマート農業などの取り組み等を対象事業としています。

またデジタル実装タイプの交付金は事業内容によって、さらに細かくいくつかのTYPEに分類され、対象事業となるものへ交付されます。

1. TYPE1:他の地域ですでに確立されている優秀なモデル・サービスを活用した実装の取り組み

TYPE1はデジタル化の第一歩として位置付けられています。
たとえば、請求書のデジタル化によって地域企業を活性化する取り組みや、観光型MaaSによる観光振興、母子健康手帳アプリを活用した子育て支援などもこのTYPEに含まれます。

2. TYPE2:デジタル原則とアーキテクチャを遵守し、オープンなデータ連携基盤を活用する、モデルケースとなりうる取り組み

TYPE1から一歩進めて、広域連携や特定分野を核に対応分野を広げるタイプ、技術を工夫し応用分野を広げるタイプ、包括的サービスの提供や総合的名スマートシティの構築に進むタイプなど、特徴ある取り組みを対象としています。

3. TYPE3:新規性の高いマイナンバーカードの用途開拓に資する取り組み(TYPE2の要件を満たす)

たとえば、災害時の避難所受け付けや高齢者タクシー補助、図書館カード機能など、生活をより便利でストレスなく手続きができる仕組み構築に資する取り組みを評価するものと位置付けられています。

4. デジタル実装計画策定支援事業:デジタル実装に取り組もうとする地域の計画づくりを支援する取り組み

2023年より実施された支援事業であり、デジタル実装に取り組む地域の計画づくりを伴走支援する委託事業を合わせて対象とするものです。
たとえば、「庁内の他課や地域内のステークホルダーを巻き込む余力がない」「デジタル技術を活用したサービス事業者との接点がない」といった課題を解決し、デジタル化を進めたいと考えている事業が対象になります。

地方創生推進タイプ・地方創生拠点整備タイプ

地域再生法に基づいて、地方公共団体が策定した地方版総合戦略に位置付けられる地域再生計画に記載された先導的な取り組み、あるいは設備整備を安定的かる継続的に支援するものです。こちらの交付金は中長期的な計画に基づいて先導的な取り組みや施設整備等を支援するものとして設けられています。
たとえば、自立性、官民協働、地域間連携、政策間連携、デジタル社会の形成への寄与といった点を要素として有する取り組みや施設整備が対象となります。
また、東京圏からのUIJターンを促進や、地方の担い手不足への対策なども対象となります。さらに省庁の所轄を超える2種類以上の施設(道・汚水処理施設・港)の一体的な整備も対象です。

デジタル田園都市国家構想を実現するための戦略と方向性

2022年6月に「デジタル田園都市国家構想基本方針」が閣議決定されました。そのなかで、デジタル田園都市国家構想の実現に向けた方向性が示され、どのように実現をしていくのかが明らかにされています。
取り組みを進めるために設けられているのは「デジタルの力を活用した地方の社会課題解決」「デジタル田園都市国家構想を支えるハード・ソフトのデジタル基盤整備」「デジタル人材の育成・確保」「誰一人取り残されないための取り組み」の4つのテーマです。それぞれに詳しくみていきましょう。

デジタルの力を活用した地方の社会課題解決

デジタル田園都市国家構想でめざしている社会とは、デジタル技術を活用して、地方の個性を活かしながら、社会課題の解決と魅力の向上を図り、地方に都市の利便性を、都市に地方の豊かさを実現して、全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会です。

デジタル田園都市国家構想が出された背景

地方の活性化を図るためには、地方の経済・社会に密接に関係するさまざまな分野でデジタルの力を活用しての社会課題解決や魅力向上が必要です。そのために、次の4つの課題への取り組みを推進します。

地方に仕事をつくる

地方でイノベーションを生むための多様な人材・知・産業の集積を促して、地域が自らの力で稼ぐことのできる環境をつくることをめざします。

人の流れをつくる

都市から地方への人の流れを創り出します。また地方から人が流出することを防ぐために、にぎわいの創出や地域を支える担い手の確保を図ります。

結婚・出産・子育ての希望をかなえる

結婚、出産、子育てがしやすい地域をつくり、子育て世代の若い人々や、介護と仕事の両方を抱える世代の人々が働きやすい環境をつくります。

魅力的な地域をつくる

教育や医療の格差をなくし、文化・芸術・スポーツなどの進行を図ることで、地方で暮らすことへの不安を解消します。そして地方で暮らすことの魅力を実感できる地域づくりを進めます。

構想を支えるハード・ソフトのデジタル基盤整備

構想を実現するためにデジタル基盤の整備をハード・ソフトの両面から進めていきます。

デジタルインフラの整備

光ファイバー、5G網の整備、さらにBeyond 5Gと言われる通信インフラの超高速化・省電力化などを実現するための技術・研究開発を加速します。そして地方のニーズに即したデジタルインフラを整備します。

マイナンバーカードの普及推進・利活用拡大

安全に、安心して利用できる便利なデジタル社会を早期に実現するために、マイナンバーカードをさらに普及推進させ、利用範囲の拡大を図ります。たとえば、オンライン市役所サービスや本人確認機能の民間ビジネスでの利用など、各市民が使いやすく利便性の高い仕組みの構築をめざします。

データ連携基盤の構築

国と地方間、地方・準公共・企業間などのサービス利活用を促進するために、データ連携基盤を構築し、産業活動に関わるソフトインフラの構築を推進します。

ICTの活用による持続可能性と利便性の高い公共交通ネットワークの整備

ICTを活用して、利便性の高い地域公共交通ネットワークを構築し、持続可能な体制づくりを進めます。また最先端のデジタル技術を利用したリニア中央新幹線の整備を早期に実現できるように図ります。

エネルギーインフラのデジタル化

再生可能エネルギーを最大限導入し、電力の安定供給を進めていくために、送配電インフラの増強を推進します。またデジタル化による運用の高度化も図ります。

デジタル人材の育成・確保

地域の課題解決をリードする人材として専門的なデジタル知識や能力を有した「デジタル推進人材」を2026年度までに230万人育成することをめざします。そしてデジタル人材が地域へ還流することを促進します。

デジタル人材育成プラットフォームの構築

すべてのビジネスパーソンに向けて、共通に求められる学びの指針となる「DXリテラシー標準」を設定します。また、民間事業者、大学等がデジタルスキル標準にあわせた教育コンテンツを提供できるように整備します。地域の企業や産業のDX人材を育成するために実践的な学びの場を提供することも進めます。

職業訓練のデジタル分野の重点化

人材開発支援助成金や教育訓練給付、求職者支援訓練、公共職業訓練などさまざまな支援・施策を充実させ、企業や労働者のニーズにあったデジタル人材の育成・確保を推進します。

高等教育機関等におけるデジタル人材の育成

全国の大学等による「数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアム」を形成し、地域の数理・データサイエンス・AI教育を促します。また、大学・専門学校・自治体・企業等が連携して、リテラシーレベルの能力取得やリスキングなどを実施します。こうした取り組みによって継続的にデジタル人材が地方の高等教育機関等から排出される体制を構築します。

デジタル人材の地域への還流促進

デジタル人材が都市部に遍在しないように「デジタル人材地域還流戦略パッケージ」として、地域企業への人材マッチング支援や、地方公共団体への人材派遣、および起業支援・移住支援等を行い、地方への人材環流を促進させます。

誰一人取り残されないための取り組み

地理的な制約、年齢、性別、障害の有無等にかかわらず、誰もが豊かさを実感するためにデジタル化の恩恵を享受する社会の実現をめざします。

デジタル推進委員の展開

高齢者やデジタル機器を十分に利用できない人たちが身近な人からデジタル機器・サービスの利用方法を学べるように「デジタル活用支援」事業を行います。2022年度に2万人以上の「デジタル推進委員」の取り組みがスタートしています。

デジタル共生社会の実現

地域で子どもたちがICT活用スキルを学び合うための「地域ICTクラブ」の普及を進めます。また障がい者に対するデジタル機器の紹介や貸し出し・利用についての相談ができるサービス拠点の設置にも取り組みます。

経済的事情等に基づくデジタルデバイドの是正

全国の大学等による「数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアム」を形成し、地域の数理・データサイエンス・AI教育を促します。また、大学・専門学校・自治体・企業等が連携して、リテラシーレベルの能力取得やリスキングなどを実施します。こうした取り組みによって継続的にデジタル人材が地方の高等教育機関等から排出される体制を構築します。

利用者視点でのサービスデザイン体制の確立

利用者がより便利に、快適に使えるようにするためのサービスデザイン体制を確立します。

「誰一人残されない」社会の実現に資する活動の周知・横展開

誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化に向けた活動を実施した個人や団体への表彰等を通じて、社会全体がデジタルに対して理解し、普及が進むように、事例の横展開や周知を図ります。

交付金(デジタル実装タイプTYPE1)を利用してDXを実現したA市(人口規模:10万名程度)の事例

デジタル田園都市国家構想で設けられている交付金を活用して、DXを実現することで会計事務に関わる課題を解決した事例として東久留米市の取り組みを紹介します。会計業務のDXの推進が市役所の業務、事業者の業務、地域における利便性を改善した事例でもあります。

解決したい課題

地域事業者の課題、庁内の課題、そして市と事業者間の取引におけるそれぞれの課題を以下のようなものでした。

地域事業者の課題

納品・請求書の発行等に係る負担

納品書、請求書は、押印の上、市役所に郵送または持参することとなっており、事業者に郵送費用や移動等の負担がありました。
納品書や請求書の提出は、発注ごとかつ事業ごととなるため、事業者側の整理・管理・把握が複雑で大変。複数課と取引がある事業者はさらに負担増となりました。

入金に関する課題

請求書を郵送する場合、担当課が受け取るまでに2・3日はかかり、その後に会計事務を行うことから、入金まで時間がかかります。
複数課と取引がある事業者は、入金された案件がどの案件かわからず、金額のみで判断することとなるため、会計処理後の確認が大変でした。そのため、会計課で別途振込通知を作成し、窓口に取りに来ていただいたり、送料事業者負担のもと郵送対応を行っていたりと、事業者の負担増となりました。

制度対応に対する課題

適格請求書等保存方式(インボイス制度)への対応として、適格請求書(インボイス)を交付する必要があることや、電子帳簿保存法に対応したシステムを用意する必要があります。 たとえば、適格請求書等保存方式については、発行者も7年間の保存義務があることや、他の事業者から求められたときは適格請求書を交付する必要があることなどの作業が新たに発生するため、対応できるシステムの導入が必要です。

庁内の課題

全職員の業務負荷

支出伝票は年間約35,000件、1日約150件です。
繁忙期は審査に数日かかり迅速な支払いが困難でした。その結果、支払遅延のリスクがありました。

不備による差戻し

特に支出事務において、不注意による誤りが多くなります。その結果、次のような負のスパイラルが発生していました。
誤りの発生→差戻しにより支払処理が遅れる→支払遅延のリスク

添付書類の紛失・添付漏れ

添付書類の糊付け業務(クリップが外れる等)添付書類の紛失や添付漏れなどが発生することが多々あります。

漏れや不備防止に伴う対策の負荷

添付漏れや誤りが発生すると、再発防止対策として、内容確認のための添付資料が増加する傾向にあります。その結果、さらに会計課と原課の負担が増加することになります。

市と事業者間の取引における課題

見積・発注に関する課題

市が見積・発注依頼をする際、電話やメールで依頼をするため、取引事業者の営業担当が不在であれば、再度連絡をする必要があるほか、メールを営業担当が確認済みであるかどうかがわからない状態でした。
一方、取引事業者は見積発行や受注業務における課題を抱えていました。たとえば、市からの見積・発注依頼が来ても、電話対応ができない場合や、折り返しの連絡が遅れるケースも多発していました。さらに、見積書は市のルールに沿った形式で作成する必要があり、市のルールに沿っていない場合は、再提出のために、持参したり郵送したりする手間が増えていました。

納品書・請求書に関する課題

市では、取引事業者から届いた納品書や請求書が市のルールに沿った形式であるかどうか、また件名や金額誤りが無いかを確認します。もし誤りがあれば、何度も提出のやり直しを連絡し、再度確認をする必要がありました。
こうした手続・確認が遅れることで、支払いの遅延が発生するリスクがありました。また、納品書や請求書の受領有無の管理が難しいという課題もありました。
一方、取引事業者にとっては、見積・受注書同様に、市のルールに沿った形式で納品書や請求書を作成しなければなりません。ルールから逸脱している場合には、再提出を要求されるので、そのたびに持参したり、郵送したりが必要になります。こうした発送作業のため、テレワークができないという状況もでていました。

システム導入による課題解決

2024年3月より、市ではBtoBプラットフォームの電子請求システムを導入することが予定されています。
見積依頼から発注、納品書、請求書の発行・授受・保管までを、電子データで行えるWebクラウドシステムが導入される予定です。
取引事業者は本システムを活用することで、帳票の細かいやりとりや、郵送対応に伴う工数等の削減、テレワークの推進および各制度への対応が可能になります。

それぞれの立場でどのような課題が解決されるのかは次のとおりです。

BtoBプラットフォームの概要
システム導入による課題解決 BtoBプラットフォームの概要

地域事業者の課題解決

納品・請求書の発行等に係る負担軽減

納品書や請求書等がすべてシステム上でやりとりできるようになるため、押印の手間やそれらを郵送、持参する手間とコストを省けます。
また受注から請求書発行までを一元管理できるため、整理・管理・把握が簡単に行えます。

入金確認に伴う事務の負担軽減

案件単位で支払完了通知を市から送付することが可能なため、複数の課と取引がある事業者でも、「どこから何に対する入金であるのか」といった入金情報を簡単に把握することが可能になります。このことで、事業者が来庁して会計課を訪ね、案件ごとに入金情報の確認をする必要がなくなります。

制度に対応したシステム利用

適格請求書や電子帳簿保存法に対応したシステムであるため、取引事業者は市と無償でやりとりが可能です。

業務の生産性向上

会計業務の作業時間を削減できることで、営利活動に充てる時間が確保され、生産性向上につなげられます。

庁内の解決課題

会計事務の負担軽減

電子請求システムと市財務会計システムを連携させることで、同じ情報を何回も入力する必要がなくなります。そのことによって、職員と事業者の業務負担を軽減できます。
また、受領していない納品書や請求書の把握が簡単になるため、担当職員以外の職員でも確認ができるようになり、不在時に業務が滞ることを防げます。さらに、支払い漏れ防止につながります。

不備による差戻し・再確認作業の削減

財務会計システムとの連携によって、職員と事業者の誤入力を減らし、不備による差戻しや再提出後の確認作業を軽減できます。こうした結果、迅速な支払いが可能になります。

添付書類の紛失・添付漏れ防止

納品書、請求書などはシステム内に保存されることになります。そのため、紛失のリスクがなくなります。また、2024年より財務会計システムに電子決裁機能が搭載されることになっているため、市側は完全デジタル化が実現されます。

交付金の活用

市の財政はどの地方においても、大変厳しい財政状況が続いています。しかし、持続可能な市政運営のためには行財政改革はもちろん、地域活性化を図った地域魅力UPが必要です。その一助となる電子帳票システムの活用による改善を期待しましたが、市の一般財源のみでの導入はかなり難しいものでした。
そこでデジタル田園都市国家構想推進交付金を活用することで導入を検討することにし、デジタル実装タイプTYPE1への申請を行いました。
デジ田の理念「デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上の実現」へのマッチ率100%で承認され、2分の1の費用の補助を受け、DX実現に取り組みました。
東久留米市では、「第5次長期総合計画」に「みんないきいき 活力あふれる 湧水のまち 東久留米」を掲げています。都心部に近い住宅地でありながら、自然に恵まれた地域環境を有しています。こうした地域で、人々がいきいきと暮らし、人が行き交い、まちが潤い、魅力あふれるまちをめざしています。こうしたまちの将来のために、電子請求システムを導入したことにより、市役所と地域事業者との間で発生していた課題を解消し、今まで以上に事業者が地域で活動できるデジタル社会の構築をめざします。

まとめ:デジタル田園都市国家構想推進交付金で業務課題を解消

デジタル田園都市国家構想は誰一人取り残されない、人に優しいデジタル社会をめざすものです。
地方公共団体と地域事業者との間で発生する取引に関する課題は、まさに、デジタル化を進めることで解消を図れるものです。東久留米市の事例で確認したように、従来の紙媒体を中心としたやりとりでは、ミスが業務を複雑にし、さらにミスを誘うという負のスパイラルから抜け出せなくなるおそれもあります。

デジタル田園都市国家構想で設けされている交付金を、業務の改善、まずは帳票に関わる業務、商取引に関わる業務のデジタル化、効率化をめざして活用してみてはいかがでしょうか。
従来、アナログな作業によって、時間と労力を要していたものを改善することで、庁内にも事業者側にも時間的、コスト的な余裕が生まれ、本来重視すべき対面業務や営利業務に割り振れるようになります。こうした積み重ねが活気のある地域へとつながっていくはずです。

まずは現状を見直すことから始めてみましょう。

※本記事は更新日時点の情報に基づいています。

監修者プロフィール

松藤 保孝 氏

一般社団法人 未来創造ネットワーク 代表理事
松藤 保孝

自治省(現総務省)入省後、三重県知事公室企画室長、神奈川県国民健康保険課長、環境計画課長、市町村課長、経済産業省中小企業庁企画官、総務省大臣官房企画官、堺市財政局長、関西学院大学大学院 法学研究科・経営戦略研究科教授、内閣府地方創生推進室内閣参事官等を歴任し、さまざまな政策の企画立案、スリムで強靭な組織の構築、行政の業務方法や制度のイノベーションを推進。一昨年退官後、地域の個性や強みを生かすイノベーションを推進する活動を行う。

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