最終更新日:2018 年11 月9 日
目次
- <未来>フィンテックがもたらす“未来予想図”
- 未来予想図①「即時払い」が当たり前になる
- 未来予想図②「デジタル通貨」が法定通貨に代わる
- 未来予想図③複雑な入出金が1回にまとまる
- <Editor's note>
<未来>フィンテックがもたらす“未来予想図”
企業間決済が抱える課題は見えてきた。それらを解決する3つの未来を想像してみよう。
- 未来予想図
- ①「即時払い」が当たり前になる
- ②「デジタル通貨」が法定通貨に代わる
- ③複雑な入出金が1回にまとまる
未来予想図①「即時払い」が当たり前になる
「月末締め、翌月末払い」などの支払サイトがなくなり、リアルタイム決済に変わっていく。
近年のアメリカや中国などでは、個人の買い物の場合、実質的な支払いを翌月に回せるクレジットカードより、リアルタイムで銀行口座から引き落とされるデビットカード決済が普及している。そして企業間取引でも、即時決済が一般的だ。
「海外では、納品を受けたら即時入金するのが標準です。支払サイトの概念はありますが、支払いまで時間を空ける場合は、その分の金利や手数料を支払うという考え方が浸透してきています。日本のように『タダで支払いを遅らせる』という考え方は一般的ではなくなってきました」
日本でも今後、支払サイトが短縮したり、即時払いが普及する可能性は大いにあると丸山氏は指摘する。その理由の一つとしてあげられるのが従業員への賃金の支払いだ。労働力不足が深刻な問題となっている今、従業員に対する即時払いのニーズが高まっているという。
「働いてからその対価を得るまで最大1カ月程度の期間がある現在のシステムは、雇用側に有利で、労働者側にとっては不利です。賃金の早期受け取りのニーズに応え即時払いを導入すれば労働力を確保しやすくなるため、導入に踏み切る企業が出てくることは十分あり得るでしょう」
早く賃金を払うためには、顧客からの支払いも早めてもらう必要がある。結果として、BtoB決済でもリアルタイム性が高まると考えられている。
このリアルタイム性は、融資にも波及している。一般的に銀行などの金融機関は、融資を希望する企業に過去3期分程度の決算書や事業計画書などの書類を提出させて審査をする。書類の作成や銀行の審査で、融資が実行されるまで1週間~1カ月程度かかるのが通例だ。
これに対し、数多くの決済データを持つ事業者が、日々の取引履歴をもとに即時審査をする「トランザクション(取引履歴)レンディング」と呼ばれる新しい融資の形が出てきた。アマゾンや楽天、GMOなどの事業者が既に提供を始め、最短1日で審査が完了する。
このように、企業にまつわるお金の流れは、今後ますます即時性を高めていくだろう。
未来予想図②「デジタル通貨」が法定通貨に代わる
決済のたびに発生する手数料をなくすために、新しい通貨の登場が望まれている。
決済のリアルタイム性を高めるうえでネックとなってくるのが、銀行振込の手数料だ。納品を受けた後に、即時に決済をする場合、その度に手数料がかかってしまう。この問題の解決策として期待されているのが『デジタル通貨』と呼ばれる新しい通貨だ。既存のビットコインに代表されるような仮想通貨や電子マネーとは異なる、新たな概念として注目されている。
仮想通貨との大きな違いは、発行主体(日本円にとっての日本銀行のような通貨を発行する管理者)があり、円に対しての価値も変動せず、いつでも換金できる点だ。発行主体には、楽天やアマゾンのようなプラットフォームを運営する企業が想定されている。
プラットフォームを利用する企業間での取引は独自のデジタル通貨で支払い、または受け取りを行って、円に換金することになる。プラットフォームが複数できて異なるデジタル通貨が流通しても、デジタル通貨同士も交換できれば問題はないという。
「奇抜な発想と感じるかもしれませんが、すでに決済サービスのペイパルではアカウント内で債権と債務の相殺が可能ですし、フリマアプリのメルカリでも売上金をポイントにして購入資金に充てる機能があります。こうした機能が企業間決済に拡大していくのは時間の問題かもしれません」
お金のハブ機能を果たすことを考えれば、運営主体となるプラットフォーマーには、銀行が真っ先に思い浮かぶ。三菱UFJ銀行はすでに1コイン=1円と定める独自のデジタル通貨『MUFGコイン』を構想し、実証実験を始めている。
他にも、みずほフィナンシャルグループは、ゆうちょ銀行や地方銀行と共に、共通のデジタル通貨『Jコイン』の発行を予定している。
また、BtoCではアマゾンや楽天など巨大なマーケットプレイスを持つ事業者や、BtoBでも決済や受発注関連サービスを提供する業者などが主体となることも想定されている。
未来予想図③複雑な入出金が1回にまとまる
複数企業間での振込作業を相殺できる、仕組みづくりが期待されている。
毎月繰り返される振込作業と、それにかかるコストの問題を一気に解決できる可能性を秘めるのが、「マルチラテラルネッティング」という仕組みだ。
「ネッティング」とは、互いに売買取引のある2つの企業同士(バイラテラル)で、一定期間の支払いと受け取りを帳簿上で相殺し、差額だけを支払う方法だ。2社のうち債務が上回っている方が1回支払うことでやりとりを終わらせることができるので、振込の手間とコストが1回分で済む。
ネッティングを多数の企業間で行うのがマルチラテラルネッティングだ。数多くの取引先に債権や債務を持っている場合でも、それらを一定期間分をひとつにまとめ、債務が上回っていれば1回の支払い、債権が上回っていれば1回の入金があり、それで完結する仕組みを指す。取引社数や件数に関わらず1回で済むようになるので、件数が多いほどメリットは大きくなる。
ただ、問題もある。この仕組みでは、最後に残った1回の支払いあるいは入金が、どの社に対するものかがわからなくなり、法的な有効性もはっきりしなくなるのだ。
これを実用化する現実的な選択肢として、特定のプラットフォームがまとめ役(ネッティングセンター)となって参加企業の債権や債務を取りまとめ、デジタル通貨を介して支払いを行うという仕組みも考えられている。
<Editor's note>
ここまで、企業間決済の未来を予想してご紹介してきたが、いずれもまだ現実的な運用には至っていない。
だが、そう遠くない将来に、決済のスピード化やリアルタイム化、円という法定通貨以外の通貨の活用といった局面が来ると考えられる。
新しい決済の仕組みが登場すれば企業の経理部門は劇的な効率化も見込める。経理を担当するビジネスパーソンは、導入の是非に関わらず新サービスの情報を貪欲に集めたり、個人向けサービスも積極的に試すなどしてアンテナを張り巡らせておきたい。
※本記事は更新日時点の情報に基づいています。法改正などにより情報が変更されている可能性があります。
監修者プロフィール
一般社団法人Fintech協会/代表理事会長 丸山 弘毅氏
慶應義塾大学商学部を卒業後、株式会社ジェーシービーで与信管理、マーケティング、新規事業開発やM&Aを担当。業界初となるOne to Oneマーケティングシステムを構築する。2006年に株式会社インフキュリオンを創業し、決済、マーケティング、情報活用戦略などを手がける。2015年に同社代表取締役、一般社団法人Fintech協会代表理事に就任。